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経 営

     
キャッシュフロー経営の時代へ

                税経管理第9課 課長 松村 恭男

 「キャッシュフロー計算書」は、「損益計算書」や「貸借対照表」を

補完する重要な財務諸表として位置付けられています。株式公開企業

の親会社と子会社の財務諸表を合算し内部取引などを相殺消去した表

である「連結財務諸表」において、「キャッシュフロー計算書」を開示

することが義務づけられました(平成12年3月期より)。これにより、

損益中心主義だった経営の考え方からキャッシュフロー重視の経営へ

変革が進行しています。

 

 しかしながら、中小企業において、「キャッシュフロー計算書」自体

がいまだ浸透しておらず、損益重視(経済取引の実態を重視)の経営

が主流であるのが現状です。

 

 そこで、今回は、キャッシュフロー経営の重要性と、損益計算とキ

ャッシュフロー計算の違いについて述べたいと思います。



1 キャッシュフロー経営の重要性

 

 「利益がでていても倒産する」という言葉はよく聞かれますが、従

来の損益重視の会計システムがもたらす不都合の最たるものが、この

黒字倒産です。黒字、つまり利益がでているのに倒産するのは、キャ

ッシュがショートしてしまったからに他なりません。

 

 例えば、売上も利益も増加しているのに、その増加以上に受取手形

や売掛金が増加している場合を考えてみましょう。この場合、売上の

増加は信用取引によりもたらされたもので、キャッシュの裏付けが伴

わない抽象的な収益の増加に過ぎず、利益がでていてもキャッシュが

マイナスとなることが有り得るのです。



 収益とは商品を販売する行為そのものでしかありません。会社にと

っての経営結果は、その販売行為によっていかにキャッシュが増加し

たかにあります。にもかかわらず、収益ばかりに注目しキャッシュを

重視しなかった為に黒字倒産のような現象が起こるのです。会社にと

っての利益とは、キャッシュに他ならないと言っても過言ではありま

せん。

 

 そこで、キャッシュフロー経営、すなわち、キャッシュフローに基

づいた管理と計画的な経営が重要になってくるのです。

 

2 損益計算とキャッシュフロー計算の違い



 損益計算とは、売上高などの「収益」から給料や消耗品費などの「費

用」を差し引いた「利益」または「損失」を計算するものです。損益

計算書では一定期間の営業の結果、どのような取引により収益が発生

し、その為の費用はどれだけかかり、その差額として利益または損失

がどれだけ発生したかを発生態様別に区分して表にします。

 

 これに対し、キャッシュフロー計算とは、現預金などの増加減少の

推移を示すもので、どのような取引によってキャッシュインフロー・

キャッシュアウトフローが発生し、その差額としてどれだけのキャッ

シュが残っているかを示すものです。

 

 日本の企業の経営状態は損益計算書で見るのが普通でした。発生し

た収益から費用を差し引いた「損益」を重視する会計だったのです。

もちろん企業の1年間という区切られた過去の状況を一目で見るには、

「損益」が最も分かりやすい指標です。

 

 しかし、損益計算には重大な欠点もあります。現預金などのキャッシ

ュがどのように動いたかが分からないのです。会計期末時点の現預

金は、資産・負債の残高の表である貸借対照表を見れば分かります。

しかし、貸借対照表は一時点の残高のみを示す表ですから、なぜその

残高になったのかという理由は全く分からないのです。そこで、先程

述べましたように、それらを補完する役割として「キャッシュフロー

計算書」が重要となってくるのです。



 損益計算とキャッシュフロー計算の違いを具体的に見ていきましょ

う。



 損益計算書は収益と費用を発生形態別に区分して損益を計算します

が、キャッシュフローと損益が異なるものになってしまう最大の理由

は、「収益・費用とキャッシュの期間のずれ」です。



 損益計算では収益を「実現主義」、費用を「発生主義」という基準で

計上します。例えば、収益については商品を相手に販売した時点(商

品を相手に渡した時点)で売上を計上し、費用については、その発生

の事実に基づいた時点で計上します。これらには必ずしもキャッシュ

の受取りや支払いを伴う必要はありません。



 特に、売上仕入取引は企業間では「掛取引=信用取引」が一般的で

すから、代金は後で支払うのが通常です。売上は上がっているけれど

も代金は受け取っていないのです。会計上は「売掛金」という勘定科

目で代金の請求権を処理しますが、「売上」という収益はすでに計上さ

れるのです。

 

 キャッシュフローで考えればキャッシュが増加するのはあくまで代

金をもらった時点であり、商品を販売した時点ではありません。ここ

に決定的な差があります。そこに、手形取引が入るとさらにずれ幅が

生じるのです。



 次に、キャッシュフローは一度に行われるのに、損益ではその影響

が徐々にしか表れないものがあります。「固定資産の減価償却」です。

固定資産は購入時に多額のキャッシュアウトフローが生じます。しか

し、損益計算では建物や車などの償却性資産は減価償却により固定資

産の耐用年数に応じて複数年に渡って費用が計上されます。固定資産

の購入に関しては、損益計算とキャッシュフロー計算ではそのインパ

クトが全く違うのです。



 損益計算とキャッシュフロー計算とには期間のずれによる差異に加

え、もっと感覚的に違いを感じるものがあります。それは「借入金」

についてです。銀行からの借入金は借りた時点で「借入金」勘定とい

う負債の勘定をたて、返済した時に借入金勘定を取り消します。もし

利息がないとすればこの借入・返済取引は、損益計算には全く載って

きません。資産・負債同士の取引では費用は発生していないからです。

借入に関するコストはあくまで「支払利息」だけであり、支払利息が

発生した時点で損益計算書に計上されます。



 これだけだと、まるで一旦借り入れたお金をそのまま返済に充てて

いるかのような動きしか示しません。実際には借り入れたお金は営業

経費や設備投資に使ってしまい、借入金の返済は売上等の営業収入を

充てていくのですから、感覚的には借入金自体が売上に対する費用の

ようなものです。利益計算だけでは、企業の動的な動きを見るのには

不十分なのです。キャッシュフロー計算ではこのような損益計算の欠

点を補うことができます。例えば、借入金の返済を固定的な支出、毎

月使えないお金として把握することができるのです。



 以上のように、損益計算とキャッシュフロー計算の違いを明確にし、

経営の根幹となるキャッシュの計画的な管理・経営を実施することが、

これから特に重要になってくると言えます。



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