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労務


   
健康保険.厚生年金保険法改正による総報酬制導入について

                    税経管理第3部 部長 宇野澤雅男  


 平成15年4月から健康保険.船員保険及び厚生年金保険法が改正されました。

 年収を基準に保険料を徴収する「総報酬制」が導入され、社会保険料負担が大

きく変わりました。

 従前の保険料率は、政府管掌健康保険が8.5%(40歳以上は介護保険料を含め

9.57%)、厚生年金が17.35%で、これを労使で折半していました。

 賞与にかかる保険料は、いずれも1%(政管健保、うち国庫補助金0.2%)でこ

のうち本人負担は政管健保が0.3%、厚生年金が0.5%となっていました。

 今回の改正による保険料率は、政管健保は月給と賞与に同率の8.2%(40歳

以上介護保険料を含めると9.09%)、厚生年金は同13.58%となり、これを労使で

折半して負担することになります。

 これまでは、年収に占める賞与の割合が多いほど保険料負担が軽く、賞与の少

ない人は負担が重いという不公平感がありましたが、今回の総報酬制の導入で、

こうした不公平感の解消が期待されています。

 反面、企業によっては月給を抑え、賞与を多くして保険料の軽減を図っていた

ところもあったかと思われますが、その効果もなくなってしまいました。

 そこで総報酬制導入で年間の保険料負担がどう変わったかを試算してみました。


(単位 円)

   賞与 2か月分 増減率 2.42か月分 増減率 3か月分 増減率 4か月分 増減率 5か月分 増減率
月収
200,000 改正前 313,400 314,072 315,000 316,600 318,200
改正後 304,920 97.29% 314,068 100.00% 326,700 103.71% 348,480 110.07% 370,260 116.36%
差額 -8,480 -4 11,700 31,880 52,060
300,000 改正前 470,100 471,108 472,500 474,900 477,300
改正後 457,380 97.29% 471,101 100.00% 490,050 103.71% 522,720 110.07% 555,390 116.36%
差額 -12,720 -7 17,550 47,820 78,090
400,000 改正前 642,304 643,648 645,504 648,704 651,904
改正後 622,908 96.98% 641,203 99.62% 666,468 103.25% 710,028 109.45% 753,588 115.60%
差額 -19,396 -2,445 20,964 61,324 101,684
500,000 改正前 783,500 785,180 787,500 791,500 795,500
改正後 762,300 97.29% 785,169 100.00% 816,750 103.71% 871,200 110.07% 925,650 116.36%
差額 -21,200 -11 29,250 79,700 130,150


今回の改正では、賞与による保険料負担の分岐点は2.42か月で、それを超え

て支給していた場合は、賞与の割合が多いほど負担増になります。

 そこで、年2回(又は3回)支給の賞与を見直すことにより、この負担増を軽

減することができます。

 総報酬制では、保険料算定の際の上限額が、次のように、月給・賞与それぞれ

に設けられています。月給では健康保険が98万円、厚生年金が62万円、 賞

与では1回あたり健康保険が200万円、厚生年金が150万円で、これを超え

た分からは保険料は徴収されません。

[方法1] 賞与の上限額(健康保険200万円.厚生年金150万円)を

  利用して軽減する。

   賞与を夏冬150万円ずつ支払うと、それぞれに保険料がかかりますが、

  1回にまとめて300万円払えば、上限を超えた分(健康保険で200万円、

  厚生年金150万円)には保険料がかかりません。

 (試算)健康保険 3,000,000−2,000,000=1,000,000×4.1%= 41,000円

     厚生年金 3,000,000−1,500,000=1,500,000×6.79%=101,850円

     年間節減額 41,000円+101,850円=142,850円

[方法2] 標準報酬の上限額(健康保険98万円.厚生年金62万円)を利用

  して軽減する。

   月給が62万円に近い額であれば、賞与を12分割して月給に上乗せして

  支払うことで、賞与にかかるはずの保険料を軽減することができます。

   月給にかかる保険料率は現在より下がるので、年収は同じままでも負担は

  むしろ軽くなります。

(試算)@月給600,000円賞与4か月(2,400,000円) 合計支給額9,600,000円

     (健康保険24,190円+厚生年金40,061円)×12月=771,012円

      賞与2,400,000円×10.89%=261,360円 年間合計1,032,372円

     A月給800,000円 賞与0か月(0円)  合計支給額9,600,000円

     (健康保険32,390円+厚生年金42,098円)×12月=893,856円

      年間節減額 1,032,372−893,856円=138,516円

[方法3] 標準報酬額の各等級表の最上位の報酬月額まで月給を引き上げ、賞

  与の額を減らすことにより、賞与にかかる保険料を減らして軽減する。


 以上、賞与の支給方法を変えることにより、保険料の負担を軽減することも可

能ですが、企業の資金繰りと従業員の生活費のことも考慮した検討が必要かと思

われます。




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