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改めて確認! 民法改正による身元保証契約

税経管理第5部 部長 戸枝 正紀

令和2年 (2020年)4月から、民法の改正により、身元保証契約の締結時には損害賠償額の上限(極度額)の記載が必要となっています。

『改正のポイント』

  • 1.損害賠償額の上限を具体的に記載することが必要です。
  • 2.損害賠償額の上限の定めのない身元保証契約は無効です。
  • 3.令和2年(2020年)4月前の締結は上限の記載が無くても効力は続きます。
  • (改正前の民法が適用されます)

身元保証契約の代表的な契約は、労働者を雇用する者と労働者の身元を保証する者(労働者本人ではない)との間で締結する身元保証契約があります。

この契約の主な目的は、
1.労働者が行方不明、連絡が取れなくなった場合等の緊急連絡先
2.労働者が雇用者に損害を与えた場合に本人と連帯して賠償を行うこと
が挙げられますが、2.の本人と連帯して賠償を行うという責任範囲が無制限では、保証人にとっては過大な負担となります。このようなことから「個人保証人の保護強化」を目的に上限額の定めのない個人の根保証契約は無効とされる法律改正が実施されました。

採用時の身元保証契約を締結する際には、次の事項に注意する必要があります。

1.身元保証契約の有効期間

  • (1)有効期間を定めない場合は、3年まで
  • (2)有効期間を定める場合は、最大5年までとなります。「在職中」や「締結日から1年、以降は自動更新とする」といった内容は無効となります。身元保証契約を継続するのであれば、有効期間満了後に改めて更新契約を締結する必要があります。

2.損害賠償額の上限 (極度額)の記載

民法の改正により、損害賠償額の上限を具体的に記載する必要があります。

上限額については、雇用者が決定し記載することとなりますが、あらかじめ身元保証人が負う金銭的な責任の上限額を知らせることが目的ですので、上限額を具体的に示す必要があります。

「労働者の月給6ケ月分」や「労働者の年収相当額」といった内容は、給与が変動すると上限額も変動しますので無効となります。
具体的な上限額をいくらにするのかは雇用者の判断に委ねられています。
高額な上限額を設定することは現実的ではないうえに、身元保証契約自体が締結されない可能性が出てきます。とはいえ少額すぎても身元保証をする必要があるのか、という疑問も出てきます。また、損害額に対して十分な補償を得られなくなる可能性がありますので慎重な判断が必要となります。
損害賠償額の上限の表記は、「連帯して損害額 (上限〇〇円)を賠償することを確約いたします。」「賠償金額は〇〇円を上限とする。」といった表記が適切です。なお、上限額を表記してあるからといって、上限額を請求出来るとは限りません。何らかの賠償を請求し双方折り合わない場合は、最終的には裁判所で判断されることになります。その際には、以下のようなあらゆる事情が総合的に考慮されます。

  • ・労働者を監督する雇用者の過失の有無
  • ・身元保証人に至った事由、経緯、注意の程度
  • ・労働者の任務又は身の上の変化、その他一切の事情
  • ・契約段階において身元保証人が負う責任の説明の有無

3.身元保証人への通知義務

  • 1.労働者に業務上不誠実な事柄等が発生し、身元保証人に対して責任問題が生じるおそれがあるとき。
  • 2.労働者の任務や任地が変更され、身元保証人の責任が重くなったり、労働者の監督が不十分となるとき。

雇用者は、遅滞なく、身元保証人に対して通知する義務があります。通知を怠ったからといって身元保証契約自体が無効にはなりませんが、身元保証人の責任が軽減される可能性があります。なお、身元保証人は、1.2 の通知を受け、将来に向かって身元保証契約を解除することが認められています。

4.採用時に身元保証契約書の提出を拒まれた場合

そもそも、採用時の身元保証人の制度は法律上の義務ではなく、労働者が提出を拒否したとしても強制することはできません。
身元保証契約書を提出しないことを理由として、採用取り消しや解雇することも可能とされる過去の判例がありますが、この場合は、身元保証契約書の提出が採用の条件(就業規則に定めがある)とされていました。身元保証契約書の提出を求める場合は、就業規則に定めていること、採用時に身元保証契約書の提出が必要であることを通知することで理解を求めましょう。
前頁では、身元保証契約締結の注意事項を示しましたが、一方で、この民法改正や通知義務等の手続き上の問題を考慮し、採用時の身元保証契約自体を見直している企業もあります。
実際にこの制度は機能しているのか、保証人に対して損害賠償請求した事例は過去何件あるのか、身元保証という日本独特の風習だけで形式的に続けていくのか、様々な意見があります。
個人情報を取り扱う企業では、高額な補償を求める事件に対応するため、身元保証契約を止め、身元信用保険等の保険に加入し、万が一の場合は保険で損害額を補填するようにしている企業もあります。
また、労働者の中には、家族構成の多様化により保証人を頼みづらい、保証人になってくれる人がいない、保証人を断られる、ケースもあるようです。これが連帯保証・身元保証の重さであり、果たして、現在の身元保証契約書提出にそれだけの価値があるのかどうか、疑問視する考えもあります。

なお、大阪府は「労働相談ポイント解説」というコーナーで次のような記載をしています。

引用:大阪府/労働相談ポイント解説 (osaka.lg.jp)

『入社時の提出書類
企業等が採用内定者に対し、入社承諾書、誓約書、身元保証書を提出させることや、提出書類に実印の押印や印鑑証明書の添付 (身元保証書への保証人の実印の押印や印鑑証明書の添付を含む)を求めることがある。
大阪府及び大阪労働局は、公正選考採用の観点から企業等に対し「提出書類の必要性や内容を十分検討すること」や「特に必要がないにもかかわらず、従前からの慣習で提出させていないか」、「内容について、過度な責任や法令等に反することを求めるものとなっていないか」、「提出させる場合であっても、不必要な書類の添付や身元保証人の数など、必要以上に応募者にプレッシャーを与えていないか」といった点について配慮を求めている。』

改めて、労働者採用時の身元保証契約の内容、就業規則・書式の改定、雇用者の 対応を検討してみてはいかがでしょうか。

以上

[追伸] その他に、連帯保証の上限 (極度額)が必要な契約には、事業用融資、不動産賃貸借契約、病院・施設等の入院・入所に係る契約等があります。

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