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税  務

事業者の事業用固定資産の売却

税経管理第5部 主任 井上 浩樹

前回の記事(No.198 2021年7月・8月)で、適格請求書保存方式(インボイス制度)導入による、免税事業者への影響についてご紹介させていただきました。適格請求書発行事業者(課税事業者)になるか検討中の方も多いかと存じます。今回は、課税事業者の資産売却時にかかる消費税について考えてみます。


1. 事業に使用していた建物や機械、固定資産を売却した場合の消費税

消費税の課税の対象となる取引は、「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等」であり、また、その性質上事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡等も含まれます。したがって、販売用の商品だけでなく事業に使用していた建物や機械、車両等の事業用資産の譲渡についても課税されます。


課税事業者が事業で使用している建物(事務所や倉庫など)を売った場合を例に考えてみましょう。

例1
・建物簿価 5,000万円
・売却価額 6,600万円(税込、消費税10%)

仕訳  (借)  現金      6,600万円  (貸)  建物      5,000万円 
(貸)  固定資産売却益 1,600万円 
上記の場合、消費税は売却額6,600万円に対して課税されます。
・6,600万円(税込)÷1.1×0.1=600万円

例2
・建物簿価 5,000万円
・売却価額 3,300万円(税込、消費税10%)

仕訳  (借)  現金      3,300万円  (貸)  建物      5,000万円 
(貸)  固定資産売却益 1,700万円 
上記の場合、消費税は売却額3,300万円に対して課税されます。
・3,300万円(税込)÷1.1×0.1=300万円
売却損であったとしても、消費税は売却額に対して課税されるため納税が必要になります。

2. 自宅を売却した場合

自宅の売却は、消費税の課税要件である「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等」から外れます。消費税の納税をする必要はありません。個人が事業用の資産ではなく、家庭用の資産を売却したことになります。


3. 土地を売却した場合

資産の譲渡は消費税の課税対象となりますが、土地の譲渡については課税事業であっても非課税となります。消費税は、商品の販売やサービスの提供、減価償却など「消費される」ものに対してかかる税金です、土地は消費される性質を持たないため、消費税はかかりません。


4. 賃貸不動産を売却した場合

個人事業主で課税事業者の方が、マンションを自宅の居住用に購入。その後、このマンションを居住用に貸出、家賃収入を得ていたとします。

この居住用賃貸マンションを売却した場合の消費税はどうなるでしょうか。


賃貸不動産を事業用の資産に計上し申告している時は、「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等」にあたり建物部分については消費税の納税をする必要があります。家賃収入は非課税ですが、マンション売却は課税の対象になるので注意が必要です。一方、マンションの土地部分(区分所有権)については非課税となります。


5. まとめ

課税事業者になると、事業用資産の売却にも消費税が課税されます。予想していないところで、消費税の高額納付が生じる可能性があります。事業用資産の売却を検討している場合は、担当者にご相談いただければ幸いです。



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