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民法の相続法が約40年ぶりの大改正へ

税経管理第8部 部長 松村

 民法の相続法が、昭和55年以来、約40年ぶりの改正となる予定です。配偶者の居住権の保護や遺産分割に関する見直し、遺留分制度の見直し等、影響の大きい重要項目が盛り込まれています。
 配偶者の居住権の保護や、遺産分割に関する見直しは、急速な高齢化の進展を受け、配偶者の老後の経済的安定につなげる狙いがあると言われています。
 また、遺留分制度の見直しは、事業承継スキームに影響がある改正案で、事業用資産や自社株等の後継者への早期移転がより可能になると言われています。

<6つの大きな柱>
 平成30年3月13日に改正法律案(※)が国会に提出されました。「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案(案)」(1月16日決定)に基づいて法文化されたものです。

 相続関連の改正項目は、大きく以下の6つです。

 <1>配偶者の居住権の保護(新設:配偶者保護)
 <2>遺産分割に関する見直し(配偶者保護・仮払い制度等の創設)
 <3>遺言制度の見直し(自筆証書遺言を巡るトラブル防止策)
 <4>遺留分制度の見直し(事業承継の促進)
 <5>相続の効力(権利・義務の承継等)に関する見直し(不動産登記の義務化)
 <6>相続人以外の者の貢献についての考慮(相続の不公平感の是正)


<1> 配偶者の居住権の保護(新設:配偶者保護)
 今回の改正で、相続開始時点で被相続人と同居していた建物(以下、居住建物)に配偶者が引き続き居住できる権利が新設されます。
 これは、被相続人の配偶者を保護する視点で設けられた権利であり、1,「配偶者短期居住権」と2,「配偶者居住権」があります。
1,配偶者短期居住権(短期居住権)
 配偶者短期居住権」は、遺産分割が終了するまでの期間について居住を保護する目的の権利です。相続開始とともに当然に発生し、次のいずれか遅い日までの間、配偶者はそのまま無償で居住建物に住むことができます。
① 分割により居住建物の取得者が確定した日
② 相続開始から6ヶ月を経過する日
 なお、配偶者短期居住権は譲渡することはできません。また、配偶者短期居住権は評価の対象にならないので、相続税上の影響はありません。

2,配偶者居住権(長期居住権)
 一方、配偶者居住権」は、長期の居住権で、居住建物を終身無償で使用・収益できる権利です。相続開始とともに発生する「配偶者短期居住権」とは異なり、次のいずれかに該当する場合に取得することができます。
遺産分割において、配偶者が、配偶者居住権を取得したとき。
② 配偶者に配偶者居住権が遺贈されたとき。
③ 被相続人と配偶者間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる死因贈与契約があるとき。
 なお、配偶者居住権も配偶者短期居住権と同様に譲渡することはできませんが、配偶者居住権は評価の対象となり、その財産的価値に相当する価額を相続したものとして扱われますので相続税の計算上影響が出てきます。


<2> 遺産分割に関する見直し(配偶者保護・仮払い制度等の創設)
1, 配偶者保護(持戻し免除)

 婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、配偶者が居住用の不動産(土地・建物)を生前贈与したときは、その不動産を原則として遺産分割の対象に含めないこととされました。これにより、配偶者の保護が手厚くなります。

2, 仮払い制度等の創設・要件明確化
 遺産である預貯金のうち、相続開始時の残高の「法定相続分×1/3 (金融機関ごと一定の金額を限度)」については、他の相続人等の合意がなくても単独で権利行使できるようになります。例えば、葬儀費用や相続後の生活資金などを相続による口座凍結後であっても一定の手続きで払い戻しができるようになります。

 

<3> 遺言制度の見直し(自筆証書遺言を巡るトラブル防止策)
1,自筆証書遺言の方式緩和

 自筆証書遺言は全文自署である必要がありますが、本改正案では、自筆証書遺言に目録を添付する場合にはその目録については、自筆ではなくパソコンなどでも自筆証書遺言の財産目録を作成できることになります。

2, 自筆証書遺言の保管制度創設(法務局)
 自筆証書遺言の場合、相続人や受贈者に発見されないケースがあります。そのようなケースを回避するための制度として、法務局が自筆証書遺言を保管してくれる制度が改正案に盛り込まれました。


<4> 遺留分制度の見直し(事業承継の促進)
 現行制度は、遺留分算定の基礎となる財産に含める生前贈与の期間制限はありませんでしたが、本改正案では、相続開始前の10年間にされたものに限り遺留分算定の基礎となる財産に含めることになります。よって、事業承継において工場等の事業用資産や自社株等を生前贈与した場合、早期移転がより可能となりますので、事業承継スキームに影響を与えることになります


<5> 相続の効力(権利・義務の承継等)に関する見直し(不動産登記の義務化)
 遺言などで法定相続分を超えて相続した不動産は、登記をしなければ第三者に対抗できないとされました。


<6>相続人以外の者の貢献についての考慮(相続の不公平感の是正)
 相続人以外の被相続人の親族(相続人の妻など)が被相続人の介護をしていた場合、一定の要件を満たせば相続人に金銭請求できることになりました。当該請求に関する裁判上の手続に関する定めも規定されました。ただし、事実婚や内縁など、戸籍上の親族でない人は従来通り請求できません。

※改正法律案 
以下の法務省サイトでご確認下さい。
「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_0021299999.html

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