The Sky's The Limit



経営

よい仕事と住みやすさが決め手
シアトル・バンクーバーに学ぶ地方創生

所長 木村哲三

 2017年9月中旬1週間、米国のシアトルとカナダのバンクーバーの自治体と企業を視察してきました。大前研一氏企画の向研会視察です。お客様に役立つ経営のヒントをお届けします。

 シアトル 個性的なダントツ企業群と住みやすい環境(人口71万人)

 シアトルはマイクロソフト発祥の地で、そこに集まるSE(システムエンジニア)目当てでアマゾンが本社を移しました。これらの企業からドロップアウトしたIT技術者がベンチャーを起こし、たくさんの新興IT企業が成長しています。現在SEの人数はシリコンバレーを抜いて全米トップです。シリコンバレーはシアトルより高給でも家賃が高く、可処分所得はシアトルのほうが多くなります。また街を抜けるとすぐ自然環境に恵まれた郊外に出るといった住みやすい環境です。

 IT企業以外にも、ホールセールのコストコ、スターバックスコーヒーやデパートのノードストロームが本社を構えています。飛行機メーカーのボーイングは主要工場を置いています。ほとんどの大手企業が本社を東京に置く日本とは違います。高給をとれる企業があり(シアトル市の住民の平均年俸は10万ドル、約1200万円を超えています)、環境も良いと人は自然に集まってきます。シアトルの人口は増え続けています。東京一極集中を避けるには地元の企業が伸びること、そして成長しても本社を東京に移さず地元に本社を置き続けることです。
 シアトル市にあるワシントン大学はAI(人工知能)の研究ではトップクラスであり、ここがIT企業の研究開発と人材供給を支えています。シアトルの勤労者の59%が大学卒です。学術の基盤となる大学があることも知識産業の集積には欠かせません。
 ただ、米国では貧富の差が拡大し続けているためか、バンクーバーに比べシアトルではホームレスの姿が目につきました。

 バンクーバー ワークライフバランスで住みたくなる街(人口60万人) 
 バンクーバーの土地3,000坪を25年前に2,500万円で購入した方が、5年後の香港返還に伴う中国人の移住で地価が上がり3倍の7,500万円で売却して、やったと思っていたそうです。それが今回行ってみると、なんと20年でその土地が10億円の価格になっていたそうな。それだけ、爆発的にバンクーバーの人気が上がっているということです。
 
 帰国の前日空いた午後を利用して、街を散策しました。街中のホテルから歩いて て10
分足らずで海に出ます。海辺のマンションに「OPEN HOUSE」の看板が掛けてあったので、覗いてみました。「OPEN HOUSE」は不動産屋さんが、物件を公開しているサインです。3階の1LDKにベッドルームで約20坪の物件、南向きだが海は見えません。この物件で8千万円でした。たしかに、バンクーバーの不動産は高騰しています。  

 車で30分から1時間でたくさんの名門ゴルフ場があり、有名なウィスラースキー場にもアクセスは1時間程度です。スポーツもお手軽に楽しめます。
 街に面した海岸線には、ヨットやボートの係留された美しいハーバーが続きます。水上飛行機の離着陸が多いです。水上飛行機でシアトルまで30分で行けるので、シアトルに本社のあるアマゾンやマイクロソフトのバンクーバーに住む社員が、多く利用するようです。

 海から街へ20分ほど歩くとガス灯で有名なショッピング飲食街です。行列の出来ている地元のレストランで食事をとりましたが、対応に人種偏見は感じられませんでした。バンクーバー市の紹介コメンテーターの会計事務所アーサーヤングの方が言っていた言葉が印象的でした。「アメリカでは外から来た人もアメリカ人の顔にならなくてはならない。バンクーバーでは、インド人はインド人のままで中国人は中国人のままで暮らせる」このことが住みやすさの原点かと思いました。
 ソフトのSEなどはサラリーの高いシリコンバレーからも住みやすさから移住してきています。ゲーム産業や映画、IT産業が勃興しています。

 シアトルの訪問企業
 マイクロソフト
 シアトルというとマイクロソフト(MS)創業の地で現在も本社があります。MSに25年勤務した鷹松弘章氏の話を聞きました。
 米国では、利己主義の人が多いと思われているが、集団的個人主義といった考え方が主流。集団的個人主義とは、一人10個のコインを与えられて、最後に残ったコインが多いものが勝ちというゲームを想定する。
 その際、真ん中のコップに自分で好きな数のコインを入れる。そのコインを参加者みんなで均等に案分する。他の参加者が出したコインの数はわからない。こういったゲームで、米国人はほとんどの方が全コイン10個を供出する。自分で貯めこんで、1,2個のコインしか出さない人は少ない。全体で儲けるといった発想を自然にするそうで、その点が強みだといった話が印象的でした。
 今は人間の幸福と仕事のバランスを考えている企業が多いとのことでした。お金と水は溜め込むと腐るといわれ、ビルゲイツは、お金を持っても不幸なことに気づき、現在はボランティアに精を出しているそうです。 また、きれいごとは反論なく通るので、学校への寄付は裏に節税目的があっても称賛されます。
 日本にもあったらいいなというシステムとして、不動産の全売買事例のしっかりしたデータベース(zillow)があります。個人がそのサイトを通して売買できます。不動産屋は不動産視察ツアーを組むサービスに代わっています。

  MS本社の社員の食堂やリラックスルームに行くと、夕方5時だというのに広い空間に人はほとんどいませんでした。自宅で勤務している社員もかなりいるようです。

 Panopto 動画収録配信 video learning made easy
 米カーネギーメロン大学で開発された動画収録・配信を簡単に行えるシステム。手元のPCやスマートフォンにアプリをダウンロードするだけでレコーダを入手でき、3クリックで動画の収録から配信まで可能。有名大学や企業も多数採用している。
 YouTubeはアップした映像を無料で特定の人だけに閲覧させることができるので、Panoptoは有料で何が優れているのかを聞きました。答えは、YouTubeは映像の所有権はYouTubeに移ってしまうのに対し、Panoptoは所有権は所有者のもので管理だけとのことでした。

 Concur 出張経費管理クラウドSAASベンダー
 2011創業 、出張・経費管理クラウド(SaaS)ベンダーで、領収証の電子化サービスで著名。フォーチュン500企業の60%以上が同社サービスを採用し、世界で36,000社、4,500万人以上のユーザーを抱える。独SAPのグループ企業。日本でシェア50% 640社が採用
 日本に戻り、お客様に役立ちそうなソフトでしたので日本ConcerとTV会議でもう少し詳しくソフトの内容と使い方のミーティングをしました。ポイントはSuica等のICカード情報を読み取って自動で取り込むことで、経費精算の時間が縮小される点です。2年後にはSuicaのデータベースから直接データを取り込むことができるようになるそうで、そうなるともっと便利になります。お値段が最低価格は30名程度が使って年30万円からだそうです。

 Starbucs カフェ サードプレイス(家庭と仕事場以外の第三の場所)
 1971年創業。エスプレッソをメイン商品に、テイクアウトと歩き飲みが可能なスタイル(シアトルスタイル)でのドリンク販売を始め、後に北米地区全土に広がったシアトルスタイルカフェ・ブームの火付け役となった。世界で22,000店以上を展開。

 シアトルのモデル店舗でスタバの新しい味のコーヒーを飲みながら、広報の方のお話を聞きました。このお店のディスプレイはコーヒーのおいしさを感じさせるような大掛かりな装置もあり演出力に富んでいました。
 スタバの進出先はその土地の教育レベル人口まで調べて慎重に決定しているそうです。

 IT関連の伸び盛りの企業も訪問
 IMPiNJ RAIN RFIDソリューション RFタグ
 icertis クラウドベースの契約システム
 Nintex ドラッグ&ドロップで簡単にワークフローの自動化ができるソフト制作
 Groundspeak GPSを利用した地球規模宝探しゲーム 、3,060,594人のゲーマー

 バンクーバーの訪問企業
 D-Wave Systems 商用量子コンピューター
今回の訪問で一番見たかった会社です。スーパーコンピューターの何倍も速く、価格も安い(1台15億円)。その結果、ビッグデータの解析がお手軽にできるようになり、これとAI(人工知能)が結び付くと世の中の仕事が変わると予想されます。現物の量子コンピュータは畳一畳分ぐらいの大きさのロッカーのようでした。中は絶対零度で超電導状態です。このコンピューターの原理を考えたのは、日本の東工大の先生です。
 またこの訪問時期にちょうど、D-Waveよりももっとシンプルに量子コンピューターを動かす原理を東京大学の研究室が発見したという報道がありました。製品化はぜひ日本のメーカーにやってもらいたいものです。

 The Center for Drug Research and Development
 大学のアーリーステージの技術をPOC(Proof of Concept。概念実証)まで開発を進める機関。大学と産業界の研究開発におけるギャップを埋める役割を担っている。
 産学官の連携機関で、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン等の製薬会社とも協力関係にある。
 若い学生からベテランの学者までたくさんの研究者を抱えていました。それぞれの研究テーマで20~30程度のプロジェクトが進行しています。
 ここの研究室からスピンオフした会社が7社あり、合計70億円の売り上げをあげているそうです。

 True north カナダでの事業展開を支援するサービスを提供。カナダ入国、事業スタート支援。
 Creative BC デジタルメディア産業の振興目的団体 制作、税務、マーケティング支援 ゲームに強い、英語のロケ3万人、カナダは規制が少ない
 Copperleaf 電力インフラ、エネルギー、交通網等の投資判断支援ソフト
設備投資の最適化と長期中期短期、大きな費用削減ができるソフト

 ブッチャードガーデン
 中日に一日休息としてビクトリア島のブッチャードガーデンを散策しました。
 ブッチャートガーデンはかつての石灰岩採石場で、今日では世界有数のフラワーガーデンとして年間100万人が訪問しています。バンクーバーからは船で1時間半ぐらいで、こういった場所に来られるのも魅力です。
 バラの終わった時期でも、違う種類の花が咲き乱れていました。採石場跡とは思えぬ見事な地形の利用です。天候にも恵まれ、気持ちの良い散策でした。

 地方創生はよい仕事を提供するしっかりした成長企業が、地場に根を下ろして発展し、住む環境が快適であることが要件なようです。東総地域も人を引き付けるそういった地域になれるよう、お客様の応援をしていきたいと思います。

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