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税 務


        相続税改正に向けて


                    経営管理第7部 部長 小島


1 概要

 東日本大震災の影響で改正が遅れていた相続税増税ですが、消費税の増税

が実現し、いよいよ現実味を帯びてきました。一説には改正により課税対象

者が5割増しになるとも言われています。相続税も“争続”も、もはや他人

ごとではありません。時間をかけて上手に節税を行う必要があります。そこ

で、いくつかの対策例をご紹介致します。


2 節税対策概略

(1)一般贈与の活用

@生前贈与

 贈与税には一人あたり年間110万円の基礎控除があり、しかもこの非課

税枠は毎年繰り返し利用可能、孫など法定相続人以外にも使えます。また、

死亡の3年以内に法定相続人に贈与した財産には相続税がかかりますが、

孫への贈与はこの対象にならないというメリットもあります。

 この際気をつけたいのは、同じ金額の贈与を定期的に数年続けると計画

的な分割贈与とみられ、その総額に対して贈与税が課税される可能性があ

るので状況に応じて贈与額を変えるなど、総額に対して課税されないよう

に工夫する必要があります。

A贈与税の配偶者控除

 婚姻20年以上の夫婦間で、居住用不動産、または居住用不動産取得の

ための資金の贈与を受けた場合、贈与税の課税価格から2000万円が控除

されます。


(2)相続時精算課税制度の利用

 この制度は親から受けた生前贈与について一旦贈与税を払い、親の死亡

時にすでに贈与されていた財産を“相続財産”とみなして相続税を計算し

精算する制度です。非課税枠は2500万円と大きいですが、贈与時の価格

で資産が評価されて相続税が決まるため、贈与された不動産が値下がりし

たときには不利になってしまいます。また、一度、相続時精算課税制度を

利用すると一般贈与に変更することも不可能です。しかし、財産の行き先

を明確にしておきたいときには有意義な制度です。このほか、マンション

の家賃のような収入が発生し続ける不動産などを贈与することで、相続財

産の増加を防ぎ、資産を移転することができます。メリット・デメリット

を検討して決めることが重要です。


(3)生命保険の活用

 非課税枠が縮小されても相続税対策には有効であり、特に死亡保険金と

して現金が支払われることは効果的です。また、保険料として生前に支払

うことで相続財産を減らす=相続税課税額を減らすというメリットもあり

ます。注意したいのは、生命保険の契約加入者と被保険者、そして受取人

をだれにするかによって、のちのち課税される税金の種類が変わることで

す。死亡時に支払われる保険金の金額自体は同じでも、「相続税」「一時所

得による税金」「贈与税」のうちどれが課税されるかによって税負担は大き

く異なります。契約者・被保険者・受取人の組み合わせを熟慮して活用す

ることが重要です。


(4)不動産の活用

 現金よりも不動産のほうが相続税評価額を軽減できることが多く、リス

クはあるが効果の大きい節税策です。しかし、子ども達には縁遠い、数年

に一回行くか行かないかといったような不必要な土地こそ親は生前に売っ

て処分すべきで、土地に執着しないことも必要だと思われます。


(5)小規模宅地等の特例の利用

 被相続人と同居していた配偶者や子どもが宅地を相続した場合は、240

uまでなら相続税評価額を最大80%減らせる「小規模宅地等の特例」を利

用できます。今後、起きるであろう可能性として、自宅で同居していた親

が老人ホームに入居する場合、「特別養護老人ホーム」と「有料老人ホーム」

のどちらに入るかによって、相続税が変わってくることがあります。相続

税の観点からだけでいうと、特別養護老人ホームが有利となります。「特養」

への入居は病気療養のための入院とみなされるため、特養に住所を移さな

ければ、相続の際に小規模宅地等の特例が使えるからです。一方専用居室

や介護サービスなどの終身利用権を取得する有料老人ホームへの入居は、

引っ越しとみなされ、特例を受けられなくなる可能性があります。


(6)養子縁組の利用

 養子縁組をすることによる相続税のメリットとして、@相続税の基礎控

除(非課税枠)が増える。A養子と同居すれば生命保険金の非課税枠が増

える。B死亡退職金の非課税枠が増える。等があり、確かに相続税の節税

にはなります。

 しかし、デメリットとして以下の点があげられます。@家庭内の混乱を

きたし遺産分割がまとまらず、相続税法で認められている相続税を優遇す

る制度が使えない可能性。A孫と養子縁組をしたとき実子と孫(親と子)

が戸籍上兄弟となり不自然、さらに孫の相続税が20%増し。B養子縁組を

することによる合理的な理由がない場合、養子を法定相続人の数に含めら

れない可能性。

 相続税の節税のために養子縁組をする場合、長男の妻を養子にする、孫

を養子にするといったことが考えられますが、もし、実子が2人以上のと

きに養子縁組をするときは、他の親族(将来の相続人)の了解を得ること

が争続を避ける意味でも重要となります。


(7)墓石・仏壇の生前購入

 相続する財産が多い場合は、生前に墓石や仏壇などを購入し、そのぶん

財産額を減らすという方法も相続税対策の一つです。墓地がなければこの

機会に購入することも一方法です。ここで大切なポイントは被相続人が「生

前に」購入しておくことです。亡くなってから相続財産で購入しても節税

にはなりません。また、墓石や仏壇をローンで購入した場合、ローン返済

中に亡くなっても、その残債は相続税を計算する際には借金として認めら

れません。


(8)相続不動産の売却

 相続した土地がいらないときは、相続税の申告期限の翌日から3年以内

に売ることにより「相続税の取得費加算の特例」が利用できます。

 これは、納めた相続税を土地を売った際の経費(取得費)として認める

という制度です。土地を売ったときの譲渡所得税は、売却額から経費を引

いた売却益に対してかかりますが、この特例を使うと相続税も経費となる

ので売却益が減り譲渡所得を低くすることができます。


※節税対策や適用要件等の詳細につきましては、担当者にお尋ね下さい。 



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