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税  務


                         遺言書

              「人生最後の意思表示」


                           税経管理第2部 部長 並木


 一昨年、公正証書遺言作成に証人として立ち会いました。当初、自筆で遺言を作成す

る予定でしたが比較検討の結果、リスクの少ない公正証書遺言作成の運びとなりました。

被相続人は、土地の相続分割について悩み、遺言書作成に踏み切ったのです。遺言者

が死亡し遺言が執行され、相続登記が終了するまでスムースに事が進みました。遺産分割

のトラブルがなかったのは遺言書の存在が大きかったと思います。遺言書について簡単に

まとめてみたいと思います。


遺言とは

 自分が生涯かけて築いた財産を、自分が死んだあとにだれに渡すのか、遺産分けを決

める遺言者の意思表示です。(財産上の事項のほかに非嫡出子の認知等、身分上の事項

に関する決定もあります)

 遺言者自らが財産の帰属を決めることにより、遺産分割をめぐる親族間の争いを防止し

ようとすることに主たる目的があります。また、遺言書を書くことで、相続人に渡す財産

に差をつけることや法定相続人以外で生前お世話になった人、例えば息子の嫁、内縁の妻

等へ遺産を分けることができます。


 遺言書は、利害関係者に重大な影響を及ぼすことから、民法により厳格に定められてお

り、次の7つに限定されています。


普通方式            @自筆証書遺言(民968)

                A公正証書遺言(民969、969の2)

                B秘密証書遺言(民970)   

特別方式   緊急時遺言    C一般危急時遺言(民976)

                D難船危急時遺言(民979)

       隔絶地遺言    E伝染病隔離者遺言(民977)

                F在船者遺言(民978)


 一般的には、普通方式の@自筆証書遺言かA公正証書遺言になりますが、「生前は

こう言っていた」などの口述や、遺言の記録としての録音テープやビデオテープは、

法律上の効力はありません。


自筆証書遺言

 遺言者が紙に、自ら、遺言の内容の全文を書き、かつ日付、氏名を書いて、押印

して作成する遺言書です。自分で書けばよいので、費用もかからずいつでも書ける

メリットがあります。遺言書を発見した者は、封書であれば開封せずに家庭裁判所

へ持参し、相続人全員へ呼出状を発送したうえで、遺言書の内容を検認する検認手

続が必要となります。検認手続とは、検認の日現在における遺言書の内容を明確に

し遺言書の偽造や変造を防止するための手続きです。病気等で手が不自由になり字

が書けなくなった場合には、自書が条件である自筆証書遺言は原則作成することが

できません。他人の添え手により作成した遺言書が無効となった判例が存在するな

ど、方式不備等で法律上無効の可能性が多く見受けられます。


公正証書遺言

 遺言者が、公証人の面前で、証人2名の立会いのもと、遺言の内容を口授し、そ

れに基づいて公証人が、遺言者の真意を文章にまとめ、公正証書の遺言書として作

成するものです。公証人とは、一定の資格を持つ法律実務経験者(裁判官や検察官

など)の中から、公証人として法務大臣によって任命された人のことです。「公証

人法」という法律に基づき、公正証書を作成し、私署証書や会社等の定款に公的認

証を付与します。公証人が事前に内容を確認しますので、法律上無効の可能性は、

まずありません。また、公正証書として原本が公証役場に保管されるため、破棄や

変造の恐れはなく、家庭裁判所の検認手続も要りません。


秘密証書遺言

 遺言者が、遺言内容を記載した書面(自書の必要はなし、ワープロでも第三者の

筆記でも可)に署名押印したうえで、これを封じ、遺言書に押印した印鑑と同じ印

鑑で封印し、公証人及び証人2名の前に提出し、自己の遺言書である旨を申述し、

作成する遺言書です。封書であるため内容を誰にも明かさずに秘密にすることがで

きますが、公証人は内容を確認することができず、遺言書の内容に法律的な不備が

ある可能性が残ります。自筆証書遺言と同じく、家庭裁判所の検認の手続きが必要

です。


一般的である自筆証書遺言と公正証書遺言を比較表にしてみます。

自筆証書遺言 公正証書遺言
有利な点 @費用がほとんどかからない。
A証人が不要ですぐに書ける。
B作り直すこと(撤回)が容易。
C存在、内容を秘密にできる。
@家庭裁判所での検認手続が不要。
A変造の可能性がない。
B紛失しても謄本を再発行できる。
C法的な不備はないに等しい。
不利な点 @紛失、変造、隠匿の可能性があ
 る。
A遺言の要件を満たしていないと
 無効となる可能性がある。
B家庭裁判所での検認の手続きが
 必要。
@費用がかかる。
A証人が2人必要。
B遺言の存在を秘密にできない。
C証人から内容が漏れる可能性あり。
注意点 @自書以外は無効。(ワープロや
 代筆はだめ)内容全文、日付、氏
 名を自書、署名の下に印を押す。
A年月日の記載無きは無効。吉日は
 無効。
B本名でなくとも筆者の同一性が確
 認できれば有効。
C押印がない場合は無効。
D加除訂正は、付記、署名、押印で
 有効。
E封書の場合は裁判所で開封しない
 と過料対象。
@証人になれない人は、未成年者や
利害関係者(推定相続人、受遺者、
配偶者、直系血族)


 遺言書がないと、民法の遺産の相続を受ける近親者の範囲(法定相続人)と配分

の割合(法定相続分)のルール(法定相続)により遺産の配分が行われます。具体

的には、相続人全員で遺産分割協議をし、全員の同意により個別の財産を分割する

のですが、個々の事情を考慮することなく法定相続により遺産が分配されると、不

平等が生じる事があります。よって遺言者自らが自分の置かれた家族関係を念頭に

相続財産の帰属を決めることが、相続人全員の遺産分割の同意に有効になってくる

のです。

 遺言による遺産分割については、税金面での考慮も必要になりますので、担当者

へご一報くださいますようお願いいたします。



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