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経 営


                サービスの「正体」

      ホテルニューオータニのマニュアルが薄い理由


                   税経管理第3部 部長 林 克己


 私達は、日常の仕事をする上で、様々な業種の顧問先様と接する機会を与

えられています。業種は違いましても、同じサービス業という点では共通し

ています。仕事を通して顧問先様からサービス業はかくあるべきという部分

で、現場で得るものは少なくありません。普段から、この様なところにまで

気を配り、快適な空間と時間、そしてサービスを提供しているのかと関心さ

せられる場面も多々あります。


 組織の現状をしっかりと把握して、将来のあるべき姿に到達するための「道

しるべ」となる良い経営計画により、組織が現在よりも高い水準の目標を設

定し、その目標を実現するために何をするべきかが明確になっている組織は、

やはり頼もしく、順調傾向が見られます。

 「経営計画」を立てる前に、まずは、経営者である方が、会社に対する「思

い」=「経営理念」を再確認すると良いのではないかと思います。頭の中で

いろいろ思い描かれていることを実際に紙に書いてみるとその「思い」が明

らかになり、これが「経営計画」へしっかり結びつくのではないでしょうか。

経営者から従業員までが共有することができ、がんばって実践しようと思え

るような「経営理念」が理想ではないかと思います。


 さて、タイトルにある、サービスの「正体」ホテルニューオータニのマニ

ュアルが薄い理由というのは、最近出版されて手にした本で、興味深く読ん

だ本の1冊です。この本を読み進めながら、そこで働く人々の気配りとサー

ビスを疑似体験することは有意義でした。


 著者は、日本最古の現存する西洋式ホテル「日光金谷ホテル」のアドバイ

ザーもつとめ、本書の舞台となったニューオータニに一年半ほど居を構えて

いたことのある人物です。


 ニューオータニのサービスマニュアルはわずか四〇ページしかないそうで

す。それは何故か?それぞれのお客様が抱え抱く期待に応え、ときにそれを

超えられるのはマニュアルではなく目にはみえない「人を大切にする心」に

重きを置いているからとありました。


 設備といった物的要素や、ホテルマンといった人的要素に到るまで、すべ

てのゲストに心地よさを提供するための「仕掛け」が沢山あることがわかり

ます。それこそが、サービスの「正体」なのだろうと著者は語っています。


 今回は、そんな仕掛けのほんの一端(サービスの正体)に触れてみたいと思

います。


◆サービスの「正体」

T THE Manual それでも覚える最低限のこと

 最低限のマニュアルは徹底して、体に覚えこませる。しかし、ホテルで出

会う様々な場面。これは決してマニュアルに書き尽くせない。感謝の気持ち

を素直に伝える言葉。お客様の趣向を想像し、先回りする言葉。そして言葉

にならない言葉。このどれもがその時の判断で発せられる。

U THE Mind 見えないことを大切にしたとき、心が通う

 感性を研ぎ澄ます。旋盤工の職人は、何千、何万という旋盤に触れながら、

百分の一ミリの違いを指先で感じられるようになる。同じようにホテルマン

も「共感」する感性を研ぎ澄ますことで、お客様が考えていること、求めて

いることを瞬時につかんでいける。

V THE Amenity 言葉では伝わらないもてなし

 他人が面倒くさいと思うことを、ひとつでも軽減するように努める。それ

が取るに足らない小さなことであったとしても・・。その積み重ねが、お客

様の満足感を刺激する。館内は、「お客様の一手間を省く」工夫に満ち溢

れています。

W THE Team 志の調和が生み出す本当のサービス

 一人ひとりの力は限られているが、優秀なスタッフがチームを組んでゲス

トに対峠するとき、最高のおもてなしが可能になり、爆発的パワーが炸裂す

る。これが組織力。

X THE Adviser 最高のアドバイザーはお客様である

 現場にいるだけでは気づかない事がある。そんな盲点をお客様がズバリ指

摘してくれることもある。忌憚のない意見をいってくれる。耳の痛くなる忠

告をしてくれる。その中にレベルアップのヒントが隠されている。

Y THE Life ホテルマンとして生きるということ

 この仕事をしていなければ、決して出会うことができなかった方々に会え

る。沢山の人々との出会いがあって、そこから日々多くのことを学びとれる。

 だから、やめられない。


 この本に登場するホテルマン達は皆、マニュアルに書かれた基本は繰り返

し行ない、徹底して行くことで、それらが無意識に行なえるレベルまで高め

て行きました。この様なレベルまで高まったとき、やっと一流のホテルマン

と呼べるところにたどり付きます。

 しかし彼らのサービスには限界はなく、さらなるレベルアップを目指し、

たゆまぬ努力を続けています。その努力が楽しいと思える人だけが、超一流

のホテルマンに成長します。


 千人いれば、千人の楽しみは違う。又、一人ひとり、心地良い距離感も違

う中で、彼らはその距離感を瞬時に感じとり、臨機応変に判断し形を変えて

接しています。ですので、時に彼らは結果的にそれぞれのお客様が抱く期待

に応えるばかりか、それを超えることも可能となるのです。これは、マニュ

アルだけでは到底、到達することの出来ない高いレベルです。


 たとえ職種や企業規模が異なるとしても、この本に書いてあることは、あ

らゆる企業や、そこで働くビジネスマンに言える事だというのを感じました。

どれも一朝一夕には身に付かないような、とても高いところに位置するもの

なのですが、一歩でも近づけるよう、レベルアップを目指す心掛けは、たと

え不本意な結果で終わっても無駄にならないと思っています。

     
参考文献 「サービスの正体」  監修 小山薫堂  出版社 すばる舎リンゲージ



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