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税  務


         
自 己 株 式


            税経管理第1部 部長 宇野澤 雅男


 平成18年5月1日より「会社法」が施行されました。

 そこで「自己株式」の取得、保有、処分について非上場株式を中

心に取り上げてみました。

[1] 自己株式の取得

(1)取得事由・取得ケース

   会社法では、株主との合意があった場合等、自己株式の取得

  が容易になりました。

   これにより、@株式譲渡制限会社がその譲渡を承認せず、株

  主から株式の買取請求をされた場合やA会社が相続人に対して

  相続された自社株の買取請求をする場合に、買取りが可能とな

  ります。

   また、次のような自己株式の有効な利用も考えられます。

   @ 相続税の納税資金確保のため、会社に自社株を譲渡する。

   A 多数の人に分散された株式を後継者に集めるため、会社が

     自己株式を買い受ける。

   B ストックオプションの付与や従業員持株会への譲渡に備え

     て、会社が自己株式を買い集める。等

(2)取得手続

 1.不特定の株主からの取得

   会社は、株主との合意により自己株式を買い受けるには、次

  の事項を株主総会(定時株主総会に限らず、臨時株主総会でも

  可能)で決議する必要があります。

   @ 取得する株式の種類及び数

   A 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(その株式

     会社の株式等を除く)の内容及びその総額

   B 株式を取得することができる期間(1年以内)

 2.特定の株主からの取得

   自己株式を特定の株主のみから取得するときは、株主総会の

  特別決議が必要となります。 

   なお、この決定をするときは、株主総会の2週間前までに、

  株主に対し、自己もその売主に追加するよう求める権利(売主

  追加請求権)があることを通知しなければなりません。

 3.売主追加請求権の不適用

   次の場合には、売主追加請求権の通知は不要となります。

   @ 定款に定めた場合

   A 取得する自己株式が市場価格のある株式である場合にお

     いて、その株式の取得価格が市場価格以下であるとき

   B 株主の相続人その他の一般承継人からその相続その他の

     一般承継により取得した自己株式を取得する場合

 4.手続不要の取得

   株式の譲渡等承認請求を認めない場合に株式会社が取得す場

  合など、通常の自己株式の取得の手続きを省略できる場合があ

  ります。

 5.財源規制

   自己株式の取得においては、分配可能額を超えることができ

  ないという規制があります。これを財源規制といいます。

   但し、合併や企業分割、事業の全部の譲り受けにより取得す

  る場合や、組織再編行為に反対する株主からの株式買取請求に

  応じる場合などには、財源規制はありません。

(3)自己株式取得の会計処理

   取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資

  本の部から控除します。

   自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計

  算書の営業外費用に計上します。

(4)自己株式取得に係る税務処理

   平成18年度の法人税法改正では、取得時には従来のような

  資産計上はせず、一般的な有償取得である場合には、取得した

  株式の種類に応じて資本金等の額から取得資本金額を減算し、

  その金額を超える部分の金額については、利益積立金を減算す

  ることとされました。


[2] 自己株式の保有

 1.保有する自己株式の地位

   自己株式については、次の株主としての基本的権利は行使で

  きません。

   @議決権、A剰余金配当請求権、B残余財産分配請求権 等。

 2.法人税における自己株式の取扱

   同族会社の判定では、自己株式を有する法人を株主から除き、

  発行済株式数には自己株式の数を含みません。


[3] 自己株式の処分

(1)自己株式の処分方法

   株式会社が取得した自己株式を処分する方法としては、消却

  する方法と募集株式として譲渡する方法があります。

 1.自己株式の消却

   自己株式を消却する場合は、消却する自己株式の数(種類株

  式発行会社は自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなけれ

  ばなりません。なお、取締役会設置会社にあっては、この決定

  は取締役会の決議によらなければなりません。

 2.自己株式の譲渡

   自己株式の譲渡は、新株の発行と合わせて募集株式の発行等

  の手続きによります。

   株式会社は、そのつど株主総会において募集株式について次

  に掲げる事項を定めなければなりません。

   @募集株式の数、A募集株式の払込金額またはその算定方法

   B現物出資の内容及び価額、C払込期日、D株式を発行する

   ときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

(2)自己株式処分における会計処理

 1.自己株式を譲渡した場合

   取得時に資産計上していないため、新株発行の場合と同様の

  処理を行うこととなります。

   @自己株式処分差益は、その他資本剰余金に計上します。

   A自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額し、減額

    しきれない場合は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)

    から減額します。

 2.自己株式を消却した場合

   @自己株式を消却した場合、減額するその他資本剰余金又は

    その他利益剰余金(繰越利益剰余金)については、取締役

    会等の会社の意思決定機関で定められた結果に従い、消却

    手続が完了したときに会計処理をします。

   A自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計

    算方法に従って、株式の種類ごとに算定します。

(3)自己株式処分における税務処理

 1.税務上は、自己株式の取得時に消却したかのような処理を行

  うこととなるため、実際に、自己株式を消却した際には、何ら

  の処理も行わないこととなります。

   従って、消却を行っても、税務上の資本の部には影響がない

  ことから、基本的には別表の調整も必要ないと考えられます。

   ただし、会計上「利益剰余金」を減額した場合等には、申告

  調整が必要となる場合もあります。

 2.譲渡した場合には、新株発行と同様の処理を行います。

  以上簡単ですが、実行される場合には改正等留意して下さい。



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