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経 営

起業と投資の好循環
深圳に学ぶ起業のエコシステム

代表 木村 哲三

 2018年9月12日より4日間、中国深圳のベンチャービジネスとベンチャーキャピタルを視察してきました。大前研一氏企画の向研会視察です。お客様に役立つ経営のヒントをお届けします。

 深圳のGDPは1979年の12百万元から2017年の2兆2400億元へと驚異的に伸びました。人口も80年の33万人から17年には1252万人と約40倍に増え、今も毎年60万人ずつ増えています。脅威の成長で80年には漁村であった町が近代都市に変貌しました。

 深圳は緑も多く、環境都市の顔も持っています。市の当局者の話では、深圳の3つのキーワードは、解放、イノベーション、環境とのことでした。深圳は初めての経済特区で、国際特許数はランク2位(1位は東京)で、商品開発はシリコンバレーよりも早く、スマートフォンは3ヶ月でできるそうです。
 深圳の町の様子は、穏やかで治安上の問題等はなさそうでした。町行く人々の表情もいたって平和でした。

 深圳ベンチャー成功の要因
 まず、成功した起業家へのあこがれから、大勢の起業家予備軍がおり、成功率が低くても数打てば当たるで中国全土ではユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業)が164社あり、深圳にはそのうちの14社があります(日本は2018年8月現在1社)。次に、いい事業アイディアにはベンチャーキャピタルがすぐにお金を出す。ここの投資家の発想は、投資の失敗よりも機会を逃すことを恐れていました。さらに政府の支援として、特区ではIT他先端事業への課税は今のところはありません。
 加えて、大きな国内マーケット(中国人口13.9億人)があり、新奇なことに寛容な国民は無人店舗で金額を誤って読まれても「まーいいか」のマインド、加えてプライバシーが軽視される国柄から自由な実験が可能です。こういった点が奏功して起業のよいエコシステムができていると思いました。
 振り返って日本は、起業家にあこがれる人はまだ大多数ではないように見え、ベンチャーキャピタルも大きく素早く対応するところは少ないようです。さらに、規制により最初からできないことが多いので、新規事業を考えるきっかけが少ないように感じました。結果はユニコーン企業数の差に表れています。

 深圳のベンチャー企業
 今回は、ベンチャー企業6社(UBTech、iDreamSky Technology、Seeed、Chaihuo (x.factory)、Arashi Vision(Insta360)、DJI)、ベンチャーキャピタル3社(Hax、Ping An Group(平安集団)、Shenzhen Valley Ventures)と行政機関として深圳市投資推進薯を視察しました。また、無人店舗の様子も見てきました。このうち、4年でユニコーン企業にまで成長したArashi Vision(Insta360)と製造コアワーキングスペースのChaihou、無人店舗をご紹介します。

 Arashi Vision(Insta360)
 2014年起業、4年で世界ナンバーワンの特殊カメラメーカーになってしまいました。Goプロの販売台数を抜いたそうです。Amazonも取り扱いをしています。

 カメラ周囲全ての景色を撮影できる「360 度カメラ」の製造販売。超高画質、高性能の4K・2400 万画素の性能。カメラ単独での撮影だけでなく、iPhone 等に接続、写真や動画をアプリで編集し、SNS にシェアしたり、ライブ配信も可能。既に世界100 カ国以上で製品を販売しています。社長は27才で、社員数は250人、社員は多国籍です。
 社長本人と参加メンバーで対話しました。
 これからどうやって経営していくかとの問いかけには、
「いつも新しい研究をやっていて、6ヶ月先を走っています。技術よりもマーケットニーズに合わせて製品を作っています。これからも未来は不安です。」とのことでした。
 会社のポリシーについて聞かれると
  「大学卒業直前に、お金・社会貢献・楽しみの3つ満たすものを考えて、起業した。我々のカメラは、一人一人大事な時間生々しく記録に残せる。おじいちゃんが生きているときにこのカメラがあったら感動的な記録が残せた。」
 私が将来の会社の姿を聞くと
「ソニーのような、ブランドのある会社になりたい」と、言っていました。

 新しいことを考える起業家がでて、その発想にお金をすぐに出すベンチャーがおり、市も後押しする環境では、たった4年でユニコーン企業ができてしまうことに彼我の差を感じました。また、起業動機に社会貢献が入っていることにも、新鮮な驚きがありました。

 Chaihou (x.factory)
 Seeed(オープンソースのハードウェアメーカー)等が設立した世界でも最古参クラスのメーカースペース(モノ作りの起業者を支援するためのリアルなコミュニティや工房スペース)。 コワーキングスペース(事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイル)であり、製品開発に必要な様々な機械や設備を使える場所。ネットワーキングや運営者からのコンサルティングも受けられる。李克強首相視察したことで知られる。
 ここを使うベンチャーに投資家も紹介します。会員メンバーシップ料金は、25千円/月、個別の机無しで月1万円。開発を請け負うと、費用はカスタム製造で1万ドルぐらいから。日本の窓口あり、経営トップは頻繁に日本に来ている。
 こういったサービスがあると、製造系のベンチャーは起業しやすいですね。

 自動店舗
 スーパーや飲食店の自動化が進んでいました。支払いはスマホが当たり前で焼きとりもスマホ決済。
 さらに店舗に来るのが大変とのことで、スマホでネット注文。
その注文を店員がスマホで受け、店員が注文された商品を保冷バッグに入れます。

 それをコンベアで店舗の外に待機しているバイク部隊に渡して配送という方式が定着していました。現金支払いのお客はどうしているかと探すと、隅にあるレジで細々と対応していました。

   
 

 視察結果を生かす
 すぐできることとしては、小売店ではスマホによる受注と配送があります。お客様の要望を聞きご検討されてはと思います。高齢化社会、お年寄りが買い物に行くのは大変です。電話やスマホでうまく注文でき、希望の品が配送される仕組みは役立ちます。配送には、昼間暇な代行車業者やピザバイク配達の兼用配達、散歩する人のついでのバイトなどアイドルエコノミーの利用もできそうです。また、人が少なくなる時代、レジの人員削減ができる自動化は欠かせません。
 また、ベンチャー支援には、いろいろなベンチャー企業が一緒に仕事しコラボする。またそこに経営や会計、法律のプロが支援するコワーキングスペースも有効です。空き家を使うと、空き家問題の解消策の一つにもなりますね。新規企業が育つと、雇用も増えて人口減対策になります。
 大きな枠組みでは、中国は2049年に世界一の覇権国家を目指しているようです。そのための経済制覇の一環として、深圳に特区を設け先進企業に税もかけず、国内市場を守りながら海外に攻めています。日本はどう対抗するか大きな課題です。

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