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経営


       シンガポール企業視察

           シンガポール企業の経営に役立つヒント


                             所長 木村哲三


 5月16日から3日間、8つのシンガポール企業及び組織を視察しました。向研会

主催の視察です。お客様に役立つ経営のヒントをお届けします。


 シンガポールは人口541万人、面積は東京都とほぼ同じ大きさです。小さな国で

すが、一人当たりGDPは日本を上回りアジアで一番です。

 PAPの一党独裁の下、リー・クアンユー元首相のリーダーシップでシンガポー

ルは成長してきました。シンガポール企業は、国の規制緩和の土台の上に、徹底的

な利便性の追求、規制の利用での外資導入、マイナス要因をプラスに変える対策で

成功しています。


 徹底した利便性の追求での成功

 企業視察中に、シンガポール企業の強さは何かと考えました。シンガポール企業

の強さの1つ目は、徹底した利便性の追求と見ました。国の規制緩和、企業の信用

を土台に、サービスの利便性を極めることで、各国の企業を引きつけ事業展開を図

っています。

 典型的な例として、港湾運営管理のPSA Internationalや証券取引所のSingapore

Exchangeが挙げられます。


 PSA International

 港湾運営管理のPSAは、もともとは港湾省が運営していましたが、収益を上げら

れる体制ができたらさっさと民営化されました。PSAは、シングルポートとしては

世界一で、世界のコンテナの1/5を扱っています。さらに、シンガポールでの港湾

運営だけでなく、港湾オペレーションを世界中に売っています。2011年にはアジア、

ヨーロッパ、アメリカの17カ国、29の港を運営しています。


 なぜ、PSAに荷が集まり、その運営サービスが支持されるのか。

 日本では、荷を受け付けてから出航までに、作成書類が20枚以上もあり、翌日に

処理が終わるのがやっとです。これに対して、シンガポールでは不要な規制が撤廃

され、PSAは徹底して合理化されたオペレーションにより数十分で同様な処理をし

ます。不要な手間の掛からないワンストップサービスも魅力です。シッパーは効率

良い港湾を選びます。トラックがすぐにはいれるシステムの取り入れなど余念があ

りません。この便利さが受けて、世界中から荷が集まり、そのオペレーションに人

気があるのです。


 投資のいらない規制緩和ができず、大きく伸びるチャンスを見逃し続ける残念な

日本の現状です。


 Singapore Exchange

 シンガポール証券取引所(略称SGX)は、金融センターとしてはトップクラスで、

2018年までに世界第2位の金融ハブとなることを目指しています。証券取引所の規

模は、国の大きさとは関係ないようです。


 アジアでは中流層が激増し、アジア資本市場も新規公開の45%がアジアと言われ

ています。

 シンガポールは、アジアのどの地域へも6時間でコンタクトできること、世界で

最もビジネスがしやすい環境、優秀な人材を得やすいことの3点で金融ハブには最

適です。

 SGXは、外国会社の公開が多いです。その理由は、アジア進出企業の窓口として、

最短8週間で公開できるスピーディーさです。日本ではこんな短期間での公開は不

可能です。さらに、SGXはその審査の透明性から、この市場で公開されることで企

業の信頼が上がります。信頼に裏打ちされた利便性が成長の秘訣と見ました。


 SGXの現在のトップはスウェーデン人の Magnus Böcker氏で、OMX (the Nordic

Exchanges Company)の元CEOでしたが、SGXにヘッドハンティングされました。

国籍問わず、一番その地位にふさわしい人間をスカウトする姿勢も参考になります

ね。彼はOMXで開発した優れた証券市場決済システムをSGXにも導入し、スピー

ディーで効率的な市場決済を可能にしました。世界最強のシステムということです。

オーストラリア、韓国もこのシステムを取り入れました。 日本はOMXシステム未

使用で、システム面でもだいぶ後れを取っているようです。


 Böcker氏と少し話しましたら、今後シンガポール市場はもっと発展するので、日

本の会計士の方も是非来て下さいとのリップサービスを受けました。

 アジアにある、体制も違うシンガポールの証券市場に抵抗はないかとの質問には、

北欧の小さな国から来たので、かえって大きな米国であぐらをかいているニューヨ

ーク市場より自分には親しい。制度が違う2国ではあるが、世界の風に触れて小国

の危機感は同様に持っている。小さな国は生き残るために絶えず、回りに注意して

嫌われないように気をつけている。その点ではスウェーデンもシンガポールも同じ

と言っていました。気さくで話が明快で好感が持てる方でした。


 自分の弱小さを常に意識し、危機感を持ち続けることも成長には必要なようです。

周りを気にし、近隣国と友好的につきあうことが生存の条件と見据えたシンガポー

ルの国家戦略が見えます。


 DBS Bank(金融機関)

 興銀に似た銀行国策銀行で海外に積極展開しています。資金は10%の利回りで回し

ているそうです。日本の金融センターの失敗の原因として次の3つを挙げていまし

た。日本語の壁、多すぎる規制、高い税金の3つです。


 規制(カジノ権利)の利用で外資呼び込み成功した観光業

 許認可権を上手に使って外資の力を引き出し、自国の資金を使わずに、シンガポ

ールは観光立国に成功しています。


 Marina Bay Sands(リゾートホテル)

 2010年4月にオープンしたシンガポールの新たなランドマーク、マリーナ ベイ

サンズ。3つの高層タワーを屋上で連結し、そこに広大なサンズスカイパークと150

メートルの屋上プールを配置。シンガポールの町のどこからでも判る斬新なデザイン

で、世界中の観光客にアピールしています。シンガポールの町の象徴になってい

ます。

 運営は米国資本のラスベガスサンズです。この会社を呼び込むために、シンガポ

ール政府は、カジノの権利を渡しました。結果として、雇用35千人が確保され、観

光客が増えて国全体の観光収入も上がり、カジノからの税収も上がる成功事例とな

りました。マリーナベイサンズのホテルは、宿泊客で一杯でした。カジノの面積は

全体の3%に過ぎませんが、カジノ部門の収入は全体の75%を占めます。


 Resorts World Sentosa(総合リゾート)

 この会社はマレーシアのゲンティンググループの会社です。ユニバーサルスタデ

ィオ・シンガポールを運営しています。ユニーバールスタディオ・シンガポールも

盛況ですが、ここでも収入はその一角にあるカジノ事業が90%を占めます。シンガポ

ール政府は、カジノの権利でこの会社に5700億円にも登る巨額投資を促している訳

です。


 弱点を強みに変えて成功

 シンガポールは水が出ません。マレーシアからの水の輸入に頼っていました。現在、

水輸入は5割程度で残りは自分で作っています。雨水の利用や海水淡水化により新たな

水を作りこの問題を解決しています。


 Hyflux(水道事業)

 水を中心に環境問題をイノベーションで解決する会社です。逆浸透膜を使う海水

淡水化プラントの開発で新たな水を作り出しました。この浸透膜はイノベーション

の塊でそのR&Dから、水プラントのオペレーションまで行います。25年契約で水

を買ってもらう契約を結んで、水不足の諸外国にプラントを建設して稼いでいます。

 水が無いことを逆手に取りブレークスルーして成功した例です。


 政府の役割

 Singapore Economic Development Board(シンガポール経済開発庁)

 シンガポールのGDPはこの50年で80倍になりました。政府の巧みな政策が功

を奏したようです。

 シンガポールはビジネス環境の中でグローバル企業のビジネスハブの地位を目指

しています。

 シンガポールの隣のマレーシアのジョホールバルが発展していきそうなことで脅

威ではないかと、講演者の開発庁の方に聞くと、一歩先を行くことで高度化するこ

とで、競争力のあるものを見つけて先にやる。だから周りの国地域の発展は大歓迎

とのことでした。

 PSAが例に挙げられますが、国がやってうまく行ったら、役所から民営化して

役所のセクションはつぶす。民間になって世界で稼いでこい、という姿勢が印象に

残りました。その時、役人は民間人になるわけです(役人の身分は永久保証ではな

い)。日本の官僚機構との彼我の差を感じます。


 シンガポールマネジメント大学の方の話では、シンガポールのサクセス要因とし

て次に5つを挙げていました。

 1 PAPが一党独裁 リー・クアン・ユー元首相のリーダーシップ

 2 ノットポピュリズム 国民の人気取りはしないで長期政策を取る

 3プラグマティズム 日本に賠償要求しない国 シンガポールと台湾 日本に

 損害賠償させないで、日本に助けてもらったほうがいいと考える

 4オ-プンアイディア 外資恐れずにオープンに対応

 5労働者・経営者・政府のリレーションがよい 外交はきめ細かくやっている


 前号で取り上げたスイスと比較すると、歴史と政治体制に大きな差があります。

 シンガポールとスイスに及び両国の企業に共通することは、世界の動きに対する

小国の危機意識です。この危機意識をバネに、自分を変えて成長していこうという

強い意志を感じました。

 失われた20年の後の日本には、世界の変化に敏感な危機意識を持ち、それに続く

自己変革が必要です。



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