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The Sky's the Limit No.138 Page 2
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税 務
震災特例法の概要 〜東日本大震災の税務 続報〜
税経管理第9部 部長 角田
この度の東日本大震災により被害を受けられた皆様方に、心からお見舞
い申し上げます。前号にて取り上げました「東日本大震災に関する税務」
の続報としまして新たな被災者支援策、「東日本大震災の被災者等に係る国
税関係法律の臨時特例に関する法律」震災特例法が平成23年4月27日に成立、
同日公布・施行されましたので、概要を解説いたします。
※震災特例法の対象となる損害については、福島原発事故によるものも含
まれます。(食品の出荷制限、廃棄した農作物なども対象です。)
1 個人所得税関連の特例
(1)所得税の軽減又は免除 (平成22年分・平成23年分選択可能に)
大震災により住宅や家財などにおいて損害を受けた方は、所得税法によ
る雑損控除または、災害減免法による税の軽減・免除の有利な方法を納税
者の選択により受けられます。また、平成22年分(申告済み場合は更正の
請求平成24年4月27日期限)の損害とみなして適用可能になりました。
(2)被災事業用資産の損失に係る取扱い
平成23年分において、事業者の有する棚卸資産、事業用資産について大
震災により生じた損失については、その損失額を平成22年分の事業所得の
計算上の必要経費に算入することが出来ます。この場合において、平成21
年分から青色申告を適用し、平成22年分に純損失が生じた時は、平成21年
分の所得の繰戻還付請求も可能です。
(3)純損失の繰越控除
事業用資産の震災損失を有する場合、平成23年において生じた純損失の
うち次に掲げる金額について、5年間繰越可能になります。
@ 事業用資産等に占める同資産の損失額の割合が1/10以上の場合
青色申告者 平成23年分純損失の金額
白色申告者 同年被災事業用資産の損失額等
A @以外の場合は事業用資産の震災損失による純損失の金額
(4)住宅借入金等特別控除の特例
大震災により住宅借入金等特別控除の適用を受けていた住宅について居
住不能(本来は居住が適用要件)の場合であっても、特別控除の残存期間
において引き続き適用可能となりました。また、年末調整で控除の場合の
提出書類である「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」を流失等に
より紛失の場合は、最寄りの税務署にて再発行が可能です。
(5)その他
@ 「納税の猶予申請書」の提出による、納付期限到来分、未到来分の猶予
A 被災代替資産等の特別償却(法人関係で解説します)など
2 法人税関連の特例
(1) 震災損失の繰戻しによる法人税額の還付
平成23年3月11日から平成24年3月10日までの間に終了する事業年度又は
平成23年3月11日から同年9月10日までの間に終了する中間期間(震災欠損
事業年度)において生じた震災損失金額(帳簿価格による資産の滅失額・
原状回復費用等)がある場合には、同年度の開始前2年以内に開始したいず
れかの事業年度(還付所得事業年度)の法人税額のうち、震災損失金額に対
応する部分の金額について、繰戻し還付請求が可能になりました。従前の青
色欠損金の繰戻還付制度とは異なり、資本金1億円超の法人や、青色申告法
人以外の法人も対象となります。また、還付2事業年度それぞれの還付額分
配計算は、法人任意のようです。
(2) 被災代替資産等の特別償却(法人・個人事業者適用)
平成23年3月11日から平成28年3月31日までの間に、被災代替資産等(下記@、
A)の取得をして事業の用に供した場合には、被災代替資産等について特別
償却が出来ることとされました。
@ 被災代替資産
大震災により滅失又は損壊した建物(その附属設備を含む)、構築物、
機械装置、船舶、航空機又は車両運搬具に代わるものとして取得し事業の
用に供した資産で、被災した資産の滅失又は損壊の直前の用途と同一の用
途に供されるものをいいます。
A 被災区域内供用資産
取得等をして被災区域内(大震災により滅失をした建物等の敷地区域)
において事業の用に供した建物(その附属設備を含む)、構築物又は機械
装置をいいます。
B 特別償却限度額の計算
被災代替資産等の取得価格×特別償却割合
減価償却資産の種類 | 取得等の時期 | 特別償却割合 | |
中小企業者 個人事業者 |
その他の法人 | ||
建物又は構築物 (増築部分を含みます) |
平成23年3月11日〜 | 18% | 15% |
平成26年3月31日 | |||
平成26年4月1日〜 | 12% | 10% | |
平成28年3月31日 | |||
機械装置、船舶、 航空機又は車両運搬具 |
平成23年3月11日〜 | 36% | 30% |
平成26年3月31日 | |||
平成26年4月1日〜 | 24% | 20% | |
平成28年3月31日 |
C 注意点等
青色申告法人以外の法人でも適用可能です。また青色申告法人において
は、償却費として損金算入額が特別償却限度額に満たない場合は、1年間
に限り翌事業年度へ繰越可能です。適用を受けるためには、償却限度額の
計算に関する明細書の添付が必要です。
(3)災害損失特別勘定への繰入額(修繕費用等の見積額)の損金算入
災害のあった日の属する事業年度において、災害により被害を受けた棚
卸資産及び固定資産の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支
出する費用の適正な見積額を「災害損失特別勘定」として経理した場合は、
所得の計算上損金算入することが出来ます。ただし、見積額に比べ翌期支
出額の方が少ない場合などは翌期に益金算入になりますが、やむをえない
事情により修繕等が遅れている場合など、税務署長へ「益金算入時期の延
長確認申請書」を提出し、その確認を受けた時には延長が可能です。
(4)損壊した賃借資産等に係る補修費の損金算入
賃借資産につき修繕等の補修義務がない場合において、その資産が災害
により被害を受け原状回復の為の補修を行い、その費用を修繕費として経
理した時にはこれが認められます。
3 消費税各種届出書関連の特例
大震災により被災事業者(指定地域・青森県、岩手県、宮城県、福島県、
茨城県、又は個別に災害による期限延長申請書を提出、その他の被災事業
者)が消費税関連の各届出書の提出が困難又は提出の必要が生じた場合に
おいて、提出期限の延長や、課税事業者・簡易課税選択の2年間の継続要
件は適用しない事となりました。例えば、被災事業者が資産に相当な損失
を受け、緊急的に設備投資を行うため平成23年分のみ簡易課税制度では
なく、一般課税により計算申告が可能になるということです。(近隣地域の
提出期限は7月29日)
4 相続税・贈与税関連の特例
(1) 相続又は贈与により取得した財産(建物、家庭用財産、自動車等)が、
申告期限前に被害を受けた場合、被害を受けた部分の割合が計算の基礎の
財産(相続税の場合は債務控除後)の価格の1/10以上等の要件に該当すれ
ば、被害を受けた価格を控除し計算が可能です。
(2) 住宅取得資金等の贈与税の特例について下記の措置が講じられました。
@ 特例の対象である住宅が損壊し、通常の修繕によっては原状回復が困
難となり入居不可能の場合は、入居要件が免除となります。
A 平成22年1月1日から同年12月31日までの住宅資金の贈与があった場合で、
対象である住宅が震災により修繕が必要になり期限までに入居が困難にな
った場合は、入居期限が1年間延長になります。
B 平成23年1月1日から同年3月10日までの住宅資金の贈与があった場合で、
対象である住宅を期限までに取得が困難になった場合は、取得期限・入居
期限がそれぞれ1年間延長になります。
5 その他の特例
(1)被災自動車に係る自動車重量税の特例還付。
(2)被災者に対しての特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税
の非課税措置。(平成33年3月31日までに作成されるもの)
(3)被災者が作成する不動産の譲渡に関する契約書等の印紙税の非課税措
置。(平成33年3月31日までに作成されるもの) など
その他の詳細は国税庁HPに掲載されています。または、各担当者まで。
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