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労 務


       −年金制度改正とその対応について−


                     税経管理第1部 部長 宇野澤


 最近の厳しい経営環境のもと、役員報酬・給与等の引き下げを考えているときに、

在職老齢年金を受給している方について、特に年金の支給停止額を考慮しながら、

その有効な方法について検討します。


[T]年金制度改正

平成16年の年金制度改正により、平成19年4月1日から、年金制度の一部が変

わりました。主な改正点は次のとおりです。

 1.70才以上の方も、厚生年金の適用事業所に勤めている場合には、老齢厚生

  年金の全額または一部の額が支給停止となる場合があります。

   但し、昭和12年4月1日以前生まれの方は、対象となりません。

 2.65才時点で年金を受ける必要のない方は、老齢厚生年金を66才以降に増

  額して受けられるようになります。(繰下げ制度の導入)

 3.遺族厚生年金制度の見直し。

 4.離婚時の厚生年金の分割制度の導入。

 5.本人からの申出による年金の支給停止の導入。


[U]60才からの在職老齢年金支給

 60才以後老齢厚生年金の受給権のある方が、厚生年金被保険者として就労する

場合、年金の一部または全部が支給停止されます。

* 総報酬月額相当額=その月の標準報酬月額+(直近1年間の賞与額の合計)÷12

  基本月額=加給年金を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)÷12


(1) 65才までの在職老齢年金(支給停止額)の計算

基本月額 総報酬月額相当額 支給停止される年金月額
28万円以下 48万円以下 (基本月額+総報酬月額相当額−28万円)×1/2
48万円超 (48万円+基本月額−28万円)×1/2+(総報酬
月額相当額−48万円)
28万円超 48万円以下 総報酬月額相当額×1/2
48万円超 48万円×1/2+(総報酬月額相当額−48万円)

(2) 65才からの在職老齢年金(支給停止額)の計算

 @ 総報酬月額相当額と基本月額との合計額が48万円以下のときは、支給停止さ

  れません。

   総報酬月額相当額+基本月額≦48万円⇒支給停止ゼロ

 A合計額が48万円を超えるときは、超えた額の1/2の額が支給停止されます。

  支給停止される年金月額⇒(総報酬月額相当額+基本月額−48万円)×1/2

(例題T)

 60才〜64才の方で、酬月額50万円、老齢年金月額20万円の場合、

控除額は社会保険料と基礎控除のみとして計算。

 この場合、在職老齢年金は全額支給停止となり税金等の負担は1,289,020円と

なり、差引手取り額は4,710,980円となります。

 次に報酬月額を28万円に引き下げた場合、在職老齢年金は月額10万円が支

給停止となりますが、月額10万円が支給されます。税金等の負担は710,568円

で、差引き手取り額は3,849,432円となり、報酬月額50万円との手取り額の差

額は、861,548円の減少で済みます。

 この場合、会社負担分は、報酬減額分2,640,000円+社会保険料減額分330,852

円=2,970,852円減少します。                (単位 円)

報酬・給与 在職老齢年金 社会保険料 所得税
住民税
差引手取り額
500,000×12
 =6,000,000
200,000−220,000=0 751,920 215,300
321,800
4,710,980
280,000×12
 =3,360,000
200,000−100,000=100,000
×12=1,200,000
421,068 93,500
196,000
3,849,432
減少差額
  2,640,000
年金増額
      1,200,000
社保減額
330,852
税金減額
247,600
手取り差額
861,548

年金支給停止の計算

(480,000+200,000−280,000)×1/2+(総報酬月額500,000−480,000)=220,000

(総報酬月額280,000+200,000−280,000)×1/2=100,000

(例題U)

  65才以上の方で、例題Tと同条件の場合

  差引き手取り額の差額877,048の減少で済みます。

  又、会社負担分は、例題Tと同額の2,970,852円減少します。

報酬・給与 在職老齢年金 社会保険料 所得税
住民税
差引手取り額
500,000×12
 =6,000,000
200,00−110,000=90,000
  ×12=1,080,000
751,920 215,300
321,800
5,790,980
280,000×12
 =3,360,000
200,00−0=200,000
×12=2,400,000
421,068 159,000
266,000
4,913,932
減少差額  
2,640,000
年金増額  
1,320,000
社保減額 
330,852
税金減額
112,100
手取り差額
877,048

  年金支給停止の計算

   (総報酬月額500,000+200,000−480,000)×1/2=110,000

   (総報酬月額280,000+200,000−480,000)≦0 ∴支給停止0


[V] 個人住民税の公的年金からの特別徴収制度

 平成21年の10月支給分から、個人住民税の公的年金からの特別徴収制度が始

まります。

 (1) 対象となる方

    個人住民税の納税義務者のうち、前年中に公的年金を受給されている方で、

   その年度の初日(4月1日)に老齢基礎年金等を受給している65才以上の方。

   但し、次に該当する方は対象になりません。

   1. 年金収入のみの方(65才以上)で非課税対象となる方

   2. 公的年金から引き落とし(特別徴収)される額が老齢基礎年金を超える方

   3. 介護保険の特別徴収被保険者でない方

 (2) 対象となる年金

   老齢基礎年金等…老齢または退職を支給事由とする公的年金

 (3) 特別徴収の対象税額

   特別徴収の対象となるのは、前年中の公的年金所得に係る個人住民税の所得割

  額及び均等割額。

 (4) 特別徴収の方法

  1.平成21年度及び特別徴収開始初年度

    年税額の2分の1に相当する額を6月と8月の2回に分けて普通徴収(金

   融機関などで納付)され、残り2分の1に相当する額は、10月から3月ま

   での各年金支給月(10月・12月・2月)の3回に分けて、引き落とし(特

   別徴収)されることとなります。

  2.翌年度以降

    年度上半期の年金支給月(4月・6月・8月)ごとに、前年度下半期の特

   別徴収額の3分の1(前年度12月及び2月分と同額)が仮徴収されます。

    年度下半期の年金支給月(10月・12月・2月)ごとに、年税額から上

   半期に仮徴収された特別徴収額を差し引いた額の3分の1が特別徴収され

   ます。

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