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経 営


      会社内部の意思決定について

      (内部資料の有効活用により投資の意思決定を円滑にする)


                   税経管理第3部 部長 林 克己


 企業内部者(経営者)や私ども税務会計業務に携わる人々は、日常業務に

おいて、財務諸表をもとに収益性や安全性などの観点から過去の分析を行い

問題点の発見などに注意を注いでいます。


 キャッシュ・フロー分析では、企業外部者や内部者がキャッシュ・フロー

計算書などの外部資料と資金運用表などの内部資料を利用して、過去の分析

と将来の計画に役立つ資金の分析を行って行きます。


 採算性分析では、企業内部者が、財務諸表の他に内部資料も利用し、将来

の利益計画や設備投資計画などの正否を問う分析をします。(下図参照)


◆ 分析内容と分析者及び資料

収益性・安全性分析 キャッシュ・フロー分析 採 算 性 分 析
分 析 者 企業外部者、内部者 企業外部者、内部者 主に企業内部者
会計資料 財務諸表中心、過去 財務諸表、内部資料、過去、将来 財務諸表、内部資料、過去、将来



経営管理活動のサイクル

 Plan  ⇒   Do   ⇒   See
(計画)    (実行)   (統制・評価)
採算性分析           財務諸表


See  収益性・安全性分析 キャッシュ・フロー分析

Plan 将来の利益計画や設備投資計画などの正否を問う分析を行います。

利益計画    採算性分析

設備投資計画  採算性分析

資金計画    キャッシュ・フロー分析


 今回は、採算性分析の代表的なものであるところの、設備投資計画のため

の採算性分析、事業所別の採算性分析及び製品別の採算性分析の概略を紹介

致します。


設備投資計画のための採算性分析


 設備投資は、経営における最大の意思決定といわれております。設備投資

は企業活動に不可欠のものですが、将来の収益構造は設備投資によってほぼ

決定されてしまうことが多く、設備投資後に高い目標利益や経費の大幅な削

除を掲げても達成は困難となるためです。過大な設備投資は、大変危険なも

のですので、会社内部の制約条件と情勢変動に注目しながら、慎重にしたい

ものです。

  次に設備投資の意思決定の代表的な評価方法を紹介します。


1.回収期間法 (安全性の観点から選択)


  設備投資に投下された資本が回収されるまでの年数(回収期間)を求め、

 それが満足しうるものであるか否かによって投資案を評価する方法です。

  回収期間法では、回収期間の最も短い案ほど有利となります。特徴とし

 て、貨幣の時間的価値を考慮しないため、設備投資の評価には不向きとさ

 れる場合もありますが、計算が簡便なため実務的には広く利用されていま

 す。回収期間(年)は投資額を各年の純現金増加額で割って算出します。


2.正味現在価値法 (収益性の観点から選択)


  正味現在価値がプラスとなる投資案を採用し、マイナスとなる投資案は

 棄却する方法です。複数の設備投資案を比較する場合、正味現在価値が最

 も大きいものが有利と判断されます。

  特徴として、貨幣の時間的価値を考慮した上で設備投資の評価を行うた

 め、理論的には優れています。しかし、回収期間法に比べて計算が煩雑で

 あり、実務的には広く浸透しているとはいえません。

  正味現在価値(円)は、各年の純現金増加額の現在価値合計から投資額

 の現在価値合計を差し引いて算出します。


  会社にはそれぞれの制約条件というのが存在します。需要や物的生産能

 力などに制約条件が設けられていれば、それについて事前に良く検討する

 必要があります。


  設備投資をするにあたっては、導入前に十分にその必要性を検討する点

 は勿論、導入後の情勢変動等により稼動出来なくなることがあります。生

 産品種が中止に追い込まれた、生産量が大きく変動した、導入機を大きく

 凌駕する機種が出たなど、予期せぬ事が発生する事も有り、意思決定を難

 しくさせるような要因が多く存在しますが、様々な観点から分析をして行

 くことで被害を最小限に抑える事が可能ではないかと思います。


事業所別の採算性分析


  特定の事業所の業績の伸びが期待できず、採算が合わないと見込まれる

 場合、その事業所を廃止するか否かを決定しなければなりません。

  固定費を個別固定費共通固定費に分類し、限界利益から個別固定費を

 差し引いて事業所利益を求めるところに特徴があります。


  単に、事業所別の損益計算書の営業利益部分の数値によって、事業所の

 継続・廃止の決定をしてはならない点に注意します。

  事業所の継続・廃止の意思決定にあたって、特定の事業所の業績が期待

 出来ずに、採算が合わないと見込まれる場合、その事業所を廃止するか否

 かを決定しなければなりません。


 最悪の場合の潔い撤収も立派な意思決定であり、ある意味、売上を増加

させる事よりも手っ取り早い方法ではないかと思います。


製品別の採算性分析(最適セールスミックスの決定)


 最適セールスミックスとは、企業内外の制約条件(例えば、需要や物的生

産能力など)の中で、利益が最大になる商製品の組み合わせを見つけること

をいいます。


 制約条件のない場合は利益を最大にするために、製品1個あたりの限界利

益が大きいものを優先的に生産・販売することを検討しますが、実際にはそ

れぞれの企業によって制約条件が存在します。その制約条件のもとで単位あ

たりの限界利益が最も大きい製品を優先的に製造・販売するようにします。

 組み合わせにより、利益は飛躍的に向上する可能性もあります。


終わりに

 採算性の分析について、代表的なものを簡単に紹介させて頂きましたが、

それぞれの採算性分析をするにあたって重視しなければならないのは、会社

の現況をしっかりと把握する点にあります。

 色々な角度から光をあてることで企業の現状を把握しましょう。




  参考文献
  「ビジネス・ゼミナール 経営分析入門」 森田松太郎著 日本経済新聞社
  「経営分析の知識」           岩本 繁著  日本経済新聞社
  「経営判断のための 採算計算入門」   藤野 信夫著 日本経済新聞社
  「MBAの財務」              J・Aトレーシー著  日本経済新聞社
  「財務分析の実践活用法(五訂版)」   大野 敏男著 経済法令研究会
  「実践財務諸表の見方」         大野 敏男著 経済法令研究会
  「はじめての経営分析」          宮田 守著  日本実業出版社
  「基本経営分析」            上原 学著 同友館



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