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税 務

       平成18年度税制改正の概要

                 税経管理第8部 部長 小島 政文


1 概要


 平成18年度の税制改正は、昨年度に続いた増税路線ですが、その路線が

一層鮮明になりました。2兆円の増税路線といわれておりますが、歳出の徹

底削減が優先されるべきでしょう。法人税等では従来の政策的な減税を廃

止し、実質的な増税に向かう傾向があります。

 今後、消費税の税率改正を含めて、厳しい時代を迎えることになります。


2 主な改正項目


(1)法人税

 @役員賞与の損金算入範囲の拡大

 A実質一人会社の役員報酬の一部損金不算入

 B同族会社の留保金課税の見直し

 C欠損金の繰戻し還付措置の延長

 D交際費の損金算入特例の延長と課税範囲の明確化


(2)政策減税

 @情報基盤強化税制の創設

 A中小企業投資促進税制の拡充

 B中小企業技術基盤強化税制の見直し

 C中小企業者の少額減価償却資産特例の延長


(3)所得税・住民税

 @住民税を単一の10%とすることに伴う税率構造の見直し

 A定率減税の廃止

 B地震保険料控除の創設

 C寄付金控除の拡大、勤労学生控除の範囲拡大

 Dキャピタル・ゲイン課税 緊急投資優遇措置


(4)相続税の物納制度

 @物納不適格財産・物納劣後財産の特定と申請手続きの明確化 

 A補正事項整備期間延長の届出制度、審査期間法定とみなし許可

 B却下の場合の延納申請制度と延納から物納への変更制度の創設

 C申請期間中の利子税の負担


(5)土地住宅税制

 @登録免許税 売買等一定のものを除き本則税率へ

 A不動産取得税 一定のものを除き現状の軽減措置を延長

 B住宅取得資金に係る相続時精算課税制度の特例の延長

 C既存住宅の耐震改修をした場合の所得税・固定資産税の軽減


(6)その他

 @公示制度の廃止

 A無申告加算税の税率の引上げ

 B所得譲与税により、3兆94億円の国から地方への税源移譲を実施

 以上が改正の主な項目ですが、以下、特に中小会社に関係の深い重
要な税制改正とキャピタル・ゲイン課税についてご説明致します。


3 中小企業関係


(1) 同族会社の留保金課税の見直し

  
 @ 同族会社の判定

  上位3株主グループが50%超となる株式等を持っている場合には、

  同族会社に該当するが、この判定が、上位1株主グループで50%

  超となる。

 A 留保控除額

  次の金額のうち最も多い金額

  (イ) 所得基準額 所得等の金額×35%(→40%(中小法人の

     場合 は50%に変更))

  (ロ) 定額基準額 年1,500万円(→年2,000万円に変更)

  (ハ) 積立金基準額 期末資本金額×25%−期末利益積立金額

                           (変更なし)

  (ニ) 中小法人については、自己資本(同族関係者からの借入金を含

     む)比率が30%に満たない場合には、その満たない部分の金

     額(新たに追加)


    この改正は、新会社法の施行により一人会社の設立が出来るこ

    とに対応して改正されたものです。


(2) 実質1人会社の役員報酬の一部損金不算入制度の創設


    次の要件を満たす同族会社の業務を主宰する役員に対して支給す

   る給与のうち、給与所得控除に相当する部分の金額は損金の額に算入

   しない。

   <適用要件>

    同族会社の業務を主宰する役員及びその同族関係者等が発行済株

   式総数の90%以上の株式を保有し、かつ、常務に従事する役員の過半

   数を占める場合。

   <適用除外>

    直前3年以内に開始する事業年度の所得等の金額※の平均額=A 

   ※所得等の金額=課税所得+主宰する役員に対して支給する給与の

   合計額B 

   (1)A≦800万円  

   (2)800万円<A≦3,000万円、かつ、B/A≦50%

    つまり、一定の同族会社のオーナーの役員報酬については、給与

   所得控除相当額について法人税を課しますよ、という規定です。 

    世の中の法人の90%以上は中小企業です。中小企業のほとんどの

   人は法人税が増税になると言うことになります。

    その中小企業の役員報酬の一定額が経費にならないと言うこと

   は、例えば年間報酬 1,200 万円の給与所得控除額は、230 万円です。

   その分の課税所得が増えることになりますので、実効税率を 40%

   とするとなんと年間 92 万円の増税になります。


(3)役員賞与の損金算入範囲の拡大


    法人がその役員に対して支給する給与のうち、1月以下の期間を

   単位として定期的に同一の額を支給する給与に加え、次に掲げる給

   与の額は、原則として損金の額に算入する。


   <利益を基礎として算定される給与以外の給与> 

    確定時期において確定額を支給する旨の定めに基づいて支給す

    る給与


   <利益を基礎として算定される給与> 

    非同族法人が業務を執行する役員に対して支給する給与で、次の

    一定の要件を満たすもの  

    ア.当該事業年度において損金経理をしていること

    イ. 算定方法につき報酬委員会における決定等の適正な手続きが

     執られていること  

    ウ.有価証券報告書等で開示されていること

    エ.その他一定の要件を満たすこと


    本年施行される新会社法において、役員報酬・賞与が職務執行の

   対価として一本化され、一方で最低資本金要件の撤廃等により個人

   事業者が法人形態を選択することが容易になります。

    このため、従来損金算入が認められていなかった臨時給与(ボー

   ナス)について、あらかじめの定めがあれば損金算入を認めること

   とする一方、実質一人会社(低所得の会社等を除く)について、節

   税目的の法人成りを抑制する観点から損金算入方法を適正化するよ

   うです。


(4)交際費の損金算入特例の延長と課税範囲の明確化


    損金不算入となる交際費等の範囲から1人当たり5,000円以下

   の一定の飲食費を除外した上、その適用期限を2年延長する。


    この改正は17年度税制改正において、交際費等の範囲の明確化

   が要請されていたことに伴うものですが、金額基準が廃されてい

   る現行実務に対して、これほど明確な「形式基準」が法令上用意

   されるという点に注目すべきでしょう。

    一定の飲食費とは、「役職員の間の飲食」を除くそれ以外のす

   べての飲食という意味ですが、現実的には、会議費名目での出費

   が該当することになると思われます。

    また、この損金算入措置は会社の大小を問わない措置であり、

   交際費等の損金算入が一切認められていない大企業にとっては一

   種の"朗報"と言えるでしょう。


(5)少額減価償却資産の損金算入の特例の新たな制限


    中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特

   例(取得価額30万円未満の減価償却資産の全額の損金算入の特

   例)について、その事業年度に取得等をした少額減価償却資産

   の取得価額の合計額が300万円を超える場合には、その超える部

   分に係る減価償却資産を対象から除外するとともに、この特例

   の適用期限を平成20年3月31日とします。


    ここで注意したいのは、単なる適用期日の延長だけではなく、

   適用金額の上限が定められることです。

    具体的には、今まで一事業年度に取得価額30万円未満の減

   価償却資産を取得等してその年に事業の用に供すれば、取得等

   したすべての資産をその事業年度の損金に算入することが認め

   られていました。これが「取得価額の合計額が300万円を超

   える場合には、その超える部分に係る減価償却資産は、対象か

   ら除外する」に改められます。つまり、29万円のパソコンを

   11台取得した場合(29万円×11台=319万円)、30

   0万円を超えた19万円 が適用対象外とされるのではなく、

   10台分の290万円のみ適用され残リの1台分29万円は即

   時償却できないことになります。 

    したがって、4月以降は既存の「一括償却資産の損金算入(2

   0万円未満の減価償却資産3年償却)」や「少額の減価償却資

   産の取得価額の損金算入(10万円未満の減価償却資産の即時

   償却)」との使い分けを今まで以上に上手に行っていく必要が

   あります。


    上記(1)から(5)までの改正は平成18年4月1日以後

   に開始する事業年度について適用されます。


4 キャピタル・ゲイン課税


 購入金額1千万円までの株式譲渡益が特例で非課税になります。


 平成13年11月30日〜平成14年12月31日までに購入した上場株式等

 が対象です。


  平成13年11月30日から平成14年12月31日までに、証券会社等を通

 じて購入または払込みにより取得した上場株式等を、平成17年1月1

 日から平成19年12月31日までに証券会社等を通じて売却した場合

 に、購入価額が1,000万円までに対する売却益は、利益の金額に関

 係なく非課税とすることができる制度です。

購入期間 <<保有期間>> 売却期間
平成13年11月30日から
平成14年12月31日まで
平成15年平成16年 平成17年1月1日から
平成19年12月31日まで

※約定日・受渡日どちらの日付でも適用可能です。

※相続・贈与などによる取得の場合は適用対象外です。


●適用を受けるにあたっての注意点


  この制度は「特定口座・源泉徴収あり」にしている場合は適用で

 きませんので、一般口座に移し替えてから売却されるか、その年の

 最初の売却(株式投信の買取・解約、信用取引等の差金決済含む)

 までに、「源泉徴収あり」から「源泉徴収なし」の特定口座へ変更

 するなどのテクニックが必要となります。



  以上、平成18年度税制改正大綱より主なものを取り上げました。

 正式な決定は今後になりますので動向に注目してまいりたいと思い

 ます。詳細な取り扱いについては、各担当者にお尋ね下さい。


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