左ページで述べたように、借家権は通常、貸す側にとってのみ相続 税の計算に必要になる事項です。このため借家権割合はもっぱら所有 者側が貸家と「貸家建付地」を評価する際に用いられます。 「貸家建付地」とは貸家の敷地に使われている宅地のことで、土地と 建物の所有者が同一の場合を指します。土地と建物の所有者が別人の 場合は「貸宅地」となり、借地権や下記の賃借権などの対象になります。 賃借権は、金銭の貸し借りと同様な「債権」に位置付けられます。こ れに対し上記の狭義の借地権は地上権に近い効力をもち、追い出され にくく、地主の承諾を得れば他人への譲渡もできます。 一般的な更地の駐車場契約などは、自動車保管が目的なので土地の 利用そのものを目的とした賃貸借契約とは違う権利関係とされていま す。通常は自用地扱いで評価減の対象外です。賃借権として評価減を 受けられるのは、借りた側が車庫などの施設を自分の費用で建てるの を貸した側が認めた場合などです( 第2章ー9 参照)。 納税のための借家人追い出しは困難 上記のように貸家を建てることによって相続税額を減らすことが可 能です。 このためアパート経営が節税策として注目されています。 だし、いざ相続が発生した際に納税の現金が不足し、アパートやその 土地の売却を迫られるケースもあります。 ところが借家人側には借家 権があり、納税期限までに立ち退きしてもらうとなると容易でありませ ん。 納税の時のことも考えておきましょう。 税務のプロが語る 「知っ得話」 〈借地、借家を貸す側にとっての評価の計算〉評価が下がります 〈賃借権〉借地権より弱い権利 1. 貸家の建物の評価の計算式は 2. 貸家建付地(貸した建物が建っている土地)の評価の計算は 固定資産税評価額 ×(1- 借家権割合 × 賃借割合) → に下がります 通常の評価額 ×(1- 借地権割合 × 借家権割合×賃貸割合) → になります 〈借地権とは〉地主側は評価減、借りた側は財産権として課税の対象 〈借家権とは〉借家権割合は全国ほぼ 30% 〈借りた側の借家権は評価しない〉権利金として取引する場合は例外 賃貸借契約をして地主さんから土地を有償で借り、自宅を建てて登 記している場合、土地使用の権利として「借地権」が生じます。借りた 側にとっては財産権であり、相続税の対象となります。国税庁はその 評価のために「借地権割合」を設定しています。同庁の路線価図・倍率 表に記載されています。 地価の高い場所ほど借地権割合が高く、東京の商業地で90%前後、 郊外の住宅地では60%前後が多いです( 定期借地権 第4章ー8 参照)。 アパートや戸建て家屋を貸している場合に、借りた側には借家権が 生じます。借家権は、財産権で原則として相続税の対象です。貸した側 は通常の家屋に比べて評価減できます。借家権の割合を評価の計算に 入れて減じます。「借家権割合」は国税庁が決めており、ほとんどの地 域で30%となっています。 借りた側の権利であるはずの借家権そのものについては、通常は相 続税または贈与税の課税対象とはされていません。つまり店舗や倉 庫、自宅などを借りている側は、そこから利益を得ていても、先行き の相続の際にその借家権を課税対象に含める必要はないわけです。 例外として、繁華街の入れ替えの頻繁な貸店舗の入居料などは、金 額が示されて「権利金」の名前で取引されるケースがあります。こうし た地域では、借りた側はその取引額が相続税や贈与税の課税対象にな ります。 第6章 土地や建物を貸している際に、貸していない場合に比べて相続税 算出にあたって評価額が下がることがあります。それは借りた側 に借地権、借家権、賃借権が生じて、所有者の自由な利用が制限さ れるからです。これらの権利の違いについて概説しましょう。 借地権、借家権、賃借権の違い 借 地 権・借 家 権・賃 借 権 12 6