冒頭のケースのように債務が不明な場合、限定承認を選べば、借金な どを調べて差し引きプラスになった際には遺産が残ります。亡くなった 方に保証債務があったとしても、残された資産を超える額は支払う必要 はありません。 また、自宅を守るのに限定承認が役立つこともあります。限定承認を した相続人は、家庭裁判所が選任した鑑定人に自宅を評価してもらいま す。その評価額を限定承認した方が自分で支払い、自宅を引き取ること ができます。 引き取った自宅を売却する時は、支払った鑑定評価額を取得価額とし て譲渡損益を計算します。 他の相続人や家裁への対応などの負担が大きく、専門家の支援を受ける のが賢明です。限定承認は後で撤回できません。また、債務返済後、遺産が 残った時、受取額は譲渡所得税の支払分だけ普通の相続より少ないです。 ただし、住民税は前年の所得に対してかかることから、翌年の1月1日には 納税義務者が居ないので、この譲渡所得に対する住民税はかかりません。 相続では借金の保証人も引き継ぐ 相談者 「亡くなった父のことで心配事があります。 父の事業には大口の 取引先があり、頼まれてその会社の借金の保証人になっていました」 税務のプロ 「このたびは御愁傷様でした。 ところで、その件は厄介です」 相談者 父は自分では借金は一切してなかったのでしたが、どうでしょうか 税務のプロ 「亡くなった人が保証人になっていた場合、相続人は保証人 の立場も引き継がなければなりません」 相談者 「保証人になると、どんなことが想定されるのでしょうか」 税務のプロ 「保証債務があるでしょうから、その会社がもし倒産すれば債 務の肩代わりを迫られる懸念があります」 相談者 「この際、保証人を逃れる方法はありますか」 税務のプロ 「借入先と交渉してだめなら、原則、相続放棄をするか、限定 承認するしか道はありません」 税務のプロが語る 「知っ得話」 〈限定承認のメリット〉債務額不明の場合は相続放棄する前に検討を 〈 限定承認のデメリット〉手続きが難関で差し引きプラスの際の損 〈相続財産を売って債務を返済する際の注意点〉借金も引き継ぐ 〈限定承認とは〉亡くなった人から相続人への譲渡とみなされる 〈限定承認の手続き〉プラス側の遺産額の範囲内で借金弁済 相続ではプラスの財産だけ引き継ぐわけにはいきません。借入金等 の債務も相続します。債務がある場合には、そのまま全てを承継する 「単純承認」は危険です。債務が多く、相続財産をすべて売却しても 借金を返済できないケースもあるからです。特に土地などを売却して 返済金を賄う際には、土地の売却時の価格から取得時の価格を差し引 いた額に譲渡所得税がかかることが要注意です。結果的に相続で自分 自身の財産まで減らしかねません。 遺産の範囲内で相続する手法が「限定承認」です。複数の相続人がい る際には、全員が一致共同して行うのが条件です。相続人の中から相 続財産管理人を選任して、資産売却や弁済などの清算手続を行いま す。一人の相続人が限定承認し、他の相続人が相続放棄する例は多い ようです。遺産については、亡くなった人から相続する人への時価で の譲渡とされ、取得時より値上がりしている土地などには「みなし譲 渡所得税」がかかります。 相続の開始があったことを知ってから3カ月以内に、「限定承認」 の申述書と相続財産の目録等を家庭裁判所に提出します。その後、単 独の限定承認では5日以内、相続財産管理人は10日以内に限定承認を した旨等を2カ月以上公告します。判明している債権者には個々に知 らせます。公告後、各債権者の債権額に応じて、プラス側の資産の範 囲内で弁済します。 第6章 〈ケース〉 A さんは父の自宅を兼ねた商店に同居していましたが、 父が急に亡くなりました。遺産はその不動産だけですが、借金も多 く詳細がつかめません。差し引きすると借金だけが残る可能性もあ りました。しかし、相続放棄すると、家も商店も失ってしまいます。 何か良い策はないでしょうか。 借金が多い相続で使える限定承認 限定承認 6 6