第5章 〈ケース〉 A さんは、高齢の母と同居しており、妻Bさんが懸命に母 の介護にいそしんでいます。亡き父の資産を継いだ母からの先々の 相続に向けて、税務のプロのところへ相談に来ました。この場合、 妻を母の養子として縁組みしてもらうのはお薦めの策になるのでし ょうか。 7 介護頑張る妻を実母の養子に 養子縁組 自宅は、Aさん所有で、母の遺産は預金 1 億 5000 万円のみとします。 Aさんには兄 1 人と妹 1 人がいるとの想定です。 納税後の1億3560万円の各人の取得額は、それぞれ約4520万円です。 納税後の 1億3760万円のうち、Aさん夫婦が計6880 万円、兄、妹が 各3440万円を得ます。相続税は減りますが、兄と妹の取得額も減ります。 1億5000万円 ― 基礎控除( 3000万円 + 600万円 × 相続人4人 = 9600万円 1人当たりでは 9600万円 ÷ 4人 = 2400万円 1000万円超~3000万円の税率15%、控除50万円 (2400万円 ×15% ― 50万円)× 4人 =1240万円 → 合計の相続税額 養子の連れ子は相続人になれない 実子がいなくて、事業の後継者になってくれる人を養子に迎えたと します。後継者となる養子に既に子がいた場合、この連れ子は養親 の代襲相続人にはなれません。 他方、養子になった後に生まれた子 であれば、養親の孫として養子の相続権を代襲相続( 第6章ー4 照 )できます。 これとは別に、税務当局は相続税を不当に減らす目的とみられる 養子縁組に対して厳しい目を向けています。 そうした行き過ぎの行為 には、税務署長に、問題のある養子縁組について税務上は法定相続 人の数に加えない裁量権を与えています。 税務のプロが語る 「知っ得話」 〈冒頭のケースでの試算〉 1. 養子縁組をしなかった場合 2. 妻Bさんを母の養子として縁組みしてもらった場合 1億5000万円 ― 基礎控除( 3000万円 + 600万円 × 相続人3人 = 1億200万円 1人当たりでは 1億200万円 ÷ 3人= 3400万円 3000万円超~5000万円の税率20%、控除200万円 (3400万円 × 20% - 200万円)× 3人 = 1440万円 → 合計の相続税額 〈養子縁組で相続人が増える〉基礎控除が 1 人分拡大 〈2 方式の養子〉普通の養子は実親と養子先の双方の相続人 〈法定相続人の養子には人数制限〉実子がいれば養子1人のみ相続人 このケースでは妻Bさんを母の養子にしてもらえば相続人が1人増 え、母の相続が発生した際には、基礎控除や生命保険金、死亡退職金 の非課税枠が増えます。また、Aさん自身と妻が法定相続人になり、 この夫婦の相続分も増えます。半面、その他の相続人(Aさんの兄弟 など)の取り分が減ります。 もしも万が一、Aさんが母より先に亡くなっていた場合には、養子 でなかったら相続権がなかった妻Bさんが相続人になるわけです。い ずれにせよ、Aさんに兄弟姉妹がいる場合は、養子にしてもらうこと で将来揉めないように、母はもちろん、親族らと協議しておくことが 肝心です。 養子縁組には「特別養子縁組」と「普通養子縁組」の2方式があります。 「特別養子縁組」は養子となった人と実親との親子関係が法律上消滅 し、実親の相続人になれなくなります。一方の「普通養子縁組」は、他 家の養子となっても実親との法律上の親子関係は続きます。つまり、 養子になった人は養親及び実親の子となり、相続に関しては双方の相 続人となります。 養子は何人でも認められますが、相続に関しては、実子がいる場合 は1人まで、実子がいない場合は2人までが法定相続人になれます。養 子縁組での節税策には限度があります。ただし、「特別養子縁組」の 養子や配偶者の実の子供で夫(または妻)の養子は、実子と見なされ人 数制限はありません。 5