第5章 子や孫の日々の生活の面倒をみるのには、原則的に贈与税はかか りません。たとえ息子が仕事をしていて一家を構えていても、毎日 の買い物や食事の代金をすべて親が払ってあげることには、課税さ れないわけです。とはいえ、別に暮らしている息子一家へ一度に多 額の現金を渡せば、贈与とみなされます。あくまで日常的な積み重 ねがポイントになります。 2 孫の生活費支援は課税されない 扶養義務者からの贈与 課税されない対象として、生活費の他に教育費も含まれます。 孫の学費支援は学校へ直に納入を 内科医院の院長をしているAさん。 孫が私立大学の医学部の入試に 合格したといいます。 準大手企業の技術者として勤める息子は、年長の その子を筆頭に4人の子を抱えて大変なはずです。 でも、親の跡を継が なかった負い目もあって、入学金の算段のことは言い出せないようでし た。 医院の経営コンサルティングの中で、そのお孫さんの話が出ました。 院長Aさん 「助けてやりたいんだが。 一千万円以上ものお金を渡し、そ の後の学費も出すとなると贈与税はかなり取られるだろう」 税務のプロ 「そんなことを心配していたんですか 。 お孫さんの教育 費の支援には贈与税はかかりません、大丈夫です」 院長Aさん 「それならいいや。 しかし、依怙地な息子にどう話そうか」 税務のプロ 「医院をお孫さんに継いでもらうとの条件はどうでしょうか」 院長Aさん 「孫は、今はまだ決めかねるのでは」 税務のプロ 「すべてはワシの相続対策のため、という趣旨にするのです」 院長Aさん 「その作戦か。 いずれ、その気になってくれるかもしれんしな」 税務のプロ 「ただし、院長自身がお金を大学へ納入するのが必須です。 の手法ですと、制度化された 教育資金の一括贈与 第5章ー3 参照)のような 煩雑な手続きや金額の上限がなく 、容易です」 税務のプロが語る 「知っ得話」 〈教育費も対象〉 〈扶養義務者とは〉貧苦にあえぐ親兄弟や孫は助ける義務あり 〈孫や社会人の子への支出もOK〉まとめて多額は不可 〈こまめに渡して記録を残す〉家計簿も役立つ 民法には子や孫、父母や祖父母など直系の血族や兄弟姉妹は互いに 扶養する義務があるとしています。妻や夫などの配偶者間も同様の義 務があります。親が子を養育し、日々の暮らしの面倒をみるのは当たり 前ですが、親兄弟や孫に関しても貧苦にあえいでいる際は、自分が困窮 していない限り、助けてあげなければなりません。 高収入のタレントの親が生活保護を受けていた事例で、社会的に問題 となりました。こうした血縁者に対して扶養義務者は手を差し伸べる義 務があり、見捨てて生活保護に頼らせることはできないとされます。 けっこうな収入を得ている成人の息子や娘の日々の生活費を負担 し、その額が年間で 110 万円の贈与税の非課税枠を超えても、贈与税は かかりません。孫の暮らしを支えてあげることも同様です。ただし、 生活費や教育費として必要な都度に渡し、直接これらに充てるための ものに限られます。長い期間の生活費を一度に渡すという方法は、こ の条件を満たしません。 必要な都度とはいえ、買い物に行く度に払ってあげるのは大変で す。こまめに渡すという形をとり、記録するなどの工夫が肝心です。 たとえば生活費相当額を毎月振り込んでおけば、記録も残るので妥当 とみなされるでしょう。 5