後継者に事業を買収してもらう方式を選択した場合、株式や事業用資
産を売却した側には所得税が課税されます。売却価格と取得価格の差額
である譲渡益に対して課税されます。非上場会社の株式の場合は税率
20.315%(所得税は 15%、住民税 5%、復興特別所得税 0.315%)です。
なお、親が、所得税額を安くしようとして時価よりも著しく低い価格
で後継者に対して売却した場合、時価と売却価格の差額に対して贈与税
が課税されることになります。この贈与税は、逆に後継者側(子)に課
税されます。
贈与・売買のいずれでも、以下の法務対策を打っておくことを薦めます。
後継者に対する贈与の内容や道筋を契約の形にして書面で行う
と、権利関係を早期に確定させることができます。後継者も安心です。
贈与する側が衰弱した際などでの心変わりといった混乱も防げます。
もう一つ、重要な注意点を挙げましょう。 生前贈与は遺留分(法定
相続人に対して留保された相続財産の割合)による制約を受けてしま
います。 あらかじめしっかりと、他の遺留分権利者の遺留分を配慮し
た贈与計画を立てておくのが望ましいです。 遺留分を放棄させること
も検討し、遺留分を盾にした相続の際の経営権の奪い合いといった
事態にならないようにしておきましょう。
なお2018年の相続法改正により、相続人に対する贈与は、相続
開始前の10年間にされたものに限り遺留分の基礎財産に含めるこ
とになりました(新民法1043条)。これによって、相続人に対
し、相続開始より10年以上前に贈与された財産は遺留分を算定す
るための財産価額に含まれないことになりました。
税務のプロが語る
「知っ得話」
書面による契約や遺留分対策がカギ
2. 売買による事業承継 ー 後継者に事業を買ってもらう
〈事業承継の際の法務上の対策 〉経営権を後継者に集中させる
1. 株式の分散を防止させる方法 ー
株式の譲渡制限を導入する
ことなどが挙げられます。
2. 議決権を集中させる方法 ー
議決権制限株式や無議決権株式、
拒否権付株式(黄金株)の発行などが有効です。
3. すでに分散している株式を集中させる方法 ー
後継者が他の
株主から買い取る方法、会社が後継者以外の株主から買い取
る方法、会社が新株を発行して後継者に割り当てる方法や株
式売り渡し請求の利用が有効です。
〈生前の事業承継2つの方法〉
1. 生前贈与による承継 ー 後継者に事業を贈与で渡す
生前贈与への優遇策「非上場株式の贈与税の納税猶予制度」とは
親などが非上場会社の代表者で、経営承継者である子など3年
以上役員である者にその会社の株式を贈与した場合、贈与税が
100%納税猶予されます。
(贈与に際して各地方の経済産業局に申
請し経済産業大臣の認定を受ける)
後継者は、株式の贈与を受ける時点で役員就任後3年経過して
いる必要があるため、どれだけ遅くとも先代経営者が後継者に株
式を贈与する期限の令和9年12月31日の3年前の令和6年12月31
日までには役員に就任する必要があります。
生前贈与と売買の二つの承継法があります。いずれにおいても「税
務上の対策」と経営権に関する「法務上の対策」を事前に行う必要があ
ります。
生前贈与では、株式や事業用資産の贈与を受けた後継者に対して贈
与税が課税されます。贈与税には暦年課税制度(
第5章 ー 5
参照)と
相続時精算課税制度(
第5章ワイド版「知っ得話 」
参照 )の 2 種類があ
り、家族構成や財産内容などを考慮してどちらが有利であるかを判断
する必要があります。いったん相続時精算課税を選択すると、それ以
後、この制度を使い贈与してくれた親や祖父母からの贈与は、暦年課
税制度を選び直すことはできません。
注)2017 年度税制改正で、2017 年 1 月 1 日より相続時精算課税制度の贈与が
贈与税の納税猶予制度の適用対象に加えられました。
第4章
12
オーナー経営者にとって最大の課題ともいえるのが次世代への事
業の引き継ぎです。後継者を育て、徐々に資産や経営権を譲ってお
くのが上策です。日本経済は中小企業によって支えられているとさ
れます。このため非上場企業の事業継承には様々な優遇策が打ち出
されています。
後継者への事業の上手な譲り方
生前の事業承継・贈与と売買の2方法
4
家
族
の
た
め
に
将
来
の
相
続
に
備
え
る