亡くなった人が所有している不動産などのデータは自治体の役所にあ り、法務局でも登記されています。しかも税務当局は、所得税などを徴 取しており、相続税の申告がなくても財産の概況をつかめるわけです。 課税になる相続に関して、無申告や申告漏れとされた際には、その 内容に応じて各種の加算税が課されます( 第1章ー5 参照)。 相続税申告書に税理士による計算事項等を記載した書面添付をして 申告します。その場合は、調査前に税理士への税務署による聴取で疑 問点が解消すると調査が省略されます。納税者にはありがたい制度で す。ただし、申告内容の不明点が残る場合には調査が行われます。 このケースでは、資金贈与の度に贈与契約書を作成し、口座に別の印鑑を 登録してご長男が通帳管理すると、ご主人の名義預金とされなくなります。 家族名義の預金には厳しいチェック 申告漏れの中でも一番多いのが家族名義の預金です。 税務署側はどの ように見つけるのかという典型例を、税務調査の場面を通じて紹介します。 調査官 「申告書を基に銀行で調べさせていただきました。 相続人のご 長男の名義の預金口座へ、多額の資金が何年にもわたり振り込まれていま した。 ご主人の口座と同じ印鑑が登録されていましたが?」 「その資金は、主人が長男名義の口座に贈与で預けたものです。 毎年 という訳ではないのですが、毎回100万円程度を贈与していたものだと思 います。 贈与税が非課税の110万円以内で贈与していたと言ってました」 調査官 「贈与なら、その預金通帳はご長男がお持ちですよね」 「その通帳は主人が持っていましたので、今お持ちできます」 調査官 「ご長男名義の通帳を管理していたという事は、入出金もご主人 が自由にできたわけですか?」 「その様です」 調査官 「この口座はご長男名義とはいえ、実態はご主人の預金なので、 相続財産に含めて申告する必要があり、申告漏れという事になります」 税務のプロが語る 「知っ得話」 〈不動産などの登記も掌握〉所得税の記録も調べる 〈申告漏れや無申告には加算税 〉 〈税務調査を避けるための書面添付〉 〈税務調査はかなり後からやってくる〉申告後 2 年後も 〈無申告でも税務署は死亡届でチェック〉隠して申告逃れるのは困難 〈税務調査の現場〉朝10時に来て、2 日間かけて実施 相続税の税務調査は申告をしてから大分遅れて来ます。申告後半年 から2年後です。それは、調査日以前にあらかじめ下調べをする為に一 定期間が必要だったからです。これは「準備調査」といわれています。 申告漏れの財産の金額で一番多いのは、現金・預貯金等です。次いで 土地、有価証券の順となっています(平成27事務年度相続税調査概況 より)。 亡くなった後に死亡届を提出すると、市役所はそれを受理した後、 税務署に報告をします。無申告でも、税務署は一件ごとに承知してい ます。 税務署から調査予定日よりも前に事前連絡が入るので、日程を調整し ます。2人程度の調査官が来る事が多いです。ただし、税理士が申告の 代理をしており、事前通知に関する納税者の同意が記載された税務代理 権限証書を税務署に出していると、税理士にこの事前連絡が入ります。 納税者が突然の税務署からの電話で驚かされることはありません。 税務調査は通常は午前10時頃から始まります。大体2日程度で、亡く なった人の自宅で行われます。調査官からは、質問があります。亡くな った人の生い立ちや財産の事などを中心に質問され、相続税の申告内容 が正しいかどうかのチェックがなされるのです。質問にはそれぞれ意図 があります。調査官は回答から内情や隠し事を探り取るノウハウを蓄積 しています。 第4章 相続税の申告が無事に済んだとしても、それで万事落着とはなり ません。その後に税務調査がやって来る割合が実は高いのです。税 務当局は、相続税の課税になりそうな人をリストアップしていると 考えた方がよいでしょう。税務調査の実態をお話ししましょう。 4 税調査員は来るのか?その準備は 税務調査 4