納税期限までに現金での納税が難しい場合には「物納」という制度が あります( 3 章 ー 5 参照)。通常の美術品の場合は物納順位が低く、か なり狭き門となります。政府には優良な美術品は「特定登録美術品」 として物納を受け入れる制度もありますが、過去の事例はごく少数で す。いずれにせよ、物納ではなく売却して現金で納税するのが現実的 です。 美術・骨董品、趣味品の売却では、専門家や専門事業者に相談する のが賢明です。一般の人には評価が難しく、買い手を探すのも大変だ からです。悪くすると買い叩かれてしまいます。専門家は取引に精通し、 オークションに持ち込むこともできます。 価値ある美術品は寄付で守る道も 価値の高い美術品については、国や地方公共団体等の運営する美 術館等に寄付をするという道もあります。寄付として受け入れられれ ば、その財産に対する相続税がかかりません。その分の税金の心配は なくなります。また、亡くなった人が収集した愛しい美術品を大事にす ることにもつながります。納税のため売り急ぐ前に、一度検討されてみ てはいかがでしょう。 税務のプロが語る 「知っ得話」 〈物納はほぼ不可能〉 〈売却では専門家が頼りになる〉 〈 このケースの対応策 〉 具体的な相続に関する計算 ー 自宅 4000万円、預金 1000万円と設定 相続人 = 息子さんと娘さんのお2人(基礎控除額計4200万円) 相続財産 = 自宅4000万円 + 預貯金1000万円 + 美術品4億円 ( 美術品の評価額が購入額と同等と仮定 )= 合計4億5000万円 相続税額 → 1億2960万円 先々の相続に備え、父を説得して納税資金分の売却をお願いする。 もしくは「相続の際には美術品を古美術商Bに買い取ってもらう」など の対策をしておくのが望ましいです。 相続税額1億2960万円に対して預貯金が1000万円。このため相続財 産から納税するためには自宅か美術品を売却しなければなりません。 通常は美術品を売却して納税ということになるでしょう。 第4章 最近、自宅に眠る美術品や趣味の収集品を鑑定してもらう TV 番組 が人気です。時には数千万円にもなる鑑定結果も見られます。有り 金をはたいて収集熱を上げていた方は、相続の際に納税のための現 金が要ることを心しておきましょう。書画骨董は売買実例価額や精 通者意見価格等により評価され、相続税の課税対象となります。 〈ケース〉 中小企業を長年経営してきたAさんは、近代の有名作家や 日本、中国、朝鮮の古美術の陶磁器の収集に目がなく、気に入った 銘品は老後資金に手を付けてまで買い込んできました。この 20 年間 で購入した美術品の総額はざっと 4 億円分。Aさんの会社を引き継 いだ息子のBさんは、手元に現金が少ないこともあって「趣味の買 い物は父の自由だけれど、このまま相続を迎えたら、どうなるので しょうか」とこっそり相談に来ました。 3 お宝収集家は納税資金も忘れずに 納税資金の準備 4