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9・10
   −絵画の力 土屋氏と石郷岡氏−

September・Octoberシャッターを閉め切った店があると、その商店街のイメージが寂

しく暗くなります。旭市の銀座通りにもシャッターを閉めた店がありますが、この

ニュースの表紙を毎回版画で飾ってくれている土屋金司さんの浮き立つ七夕の絵が、

閉まったシャッター一面に描かれているおかげで、通りが生き返りました。彼の絵

画があると無いとでは、通りの空気が一変します。


 「鬼来迎」を初めとした鬼シリーズの力とおかしみ、すごみ。「犬吠太郎」3部

作の物語性と終章の孤絶、「桜祭り」の可憐、「うずめ」の洗練、「貝取りの浜辺」

の郷愁等、土屋氏の作品の魅力はつきません。


 行動する作家、土屋氏は今までも様々な試みを実験してきました。一昨年の夏は、

銚子電鉄の犬吠駅を初め各駅に、彼の指導を受けた銚子の中学生達の段ボールを素

材とした作品を展示し、各駅での乗降により生徒達の作品を駅毎に楽しめる趣向を

試みました。


 今彼は、旭市50周年の来年秋に向けて、銀座通り商店街全てを一つのギャラリ

ーと見立てた版画展を企画しています。まだ本決まりではありませんが、この企画

が実現すれば、彼が版画の授業で指導している、旭市近隣の小学生の共同製作版画

が展示されます。作品の一つ、共和小学校の生徒達の作品「宇宙農場で米作り」の

写真を拝見しましたが、プリミティブなパワーと未来、楽しさを感じさせてくれる

素晴らしい作品でした。こういった大作が30点近く展示されます。土屋氏と子供

達の芸術の力が商店街の活性化とどう結びついていくか、新しい絵画の祭りが期待

されます。


 数年前にノルマンディーの古城から旭市に移り住んだ石郷岡敬佳氏の絵画は、作

品一つ一つが全く違う魅力で見るものを打ちます。成功した画家は、売れた成功作

の作風を変えたがりませんが、氏は常に変貌します。アメリカの芸術大学の美術教

科書に、色彩の部で大きく取り上げられた、三原色を大胆に精妙に配した

「Incandescent fantasy of flowers of sulphur」、金色の炎の中に真っ赤に咲く

「幻の椿」、巨大なうねりと金色の爆発が人間、地球、生きとし生けるもの全ての

生命の流れを表しているような「生々流転」、風と波の激しいダイナミックな動き

と金銀の飛沫でこの世の常ならぬ事を直感させる「春の嵐」、見ていると哲学的な

静謐な気持ちになる、真っ暗な闇の中に赤く燃える「新星の誕生」、陶器を思わせ

る金のマチエールが美しい「黄金の城」等々、その絵画の多様な魅力に幻惑されま

す。「・・・ 普遍妥当の美を求め 無限の時間と空間と形と色彩と 生死を超克

したところに 私の絵画は成立する」 氏の絵画に対する姿勢です。


 素晴らしい作品のある場は空気が変わり、空間の質が大きく上がります。これが

絵画の力です。


 図書館や体育館は何処にでも作れますが、美術館はそうはいきません。展示する

作品が命ですから、建物だけでは無理なのです。川崎市には、岡本太郎のおかげで

素晴らしい岡本太郎美術館が出来ました。


 旭市には具象版画の土屋氏、抽象絵画の石郷岡氏という素晴らしい画家達が、幸

運にも居ります。彼らの作品が分散する前に、市民が芸術を楽しみ、豊かな気持ち

になれる美術館が、旭市主導で出来ればと思います。美術館が出来る事によって、

旭市の文化レベルは大きく上がります。展示する場が出来ることで、後に続く画家、

彫刻家、写真家や陶芸家等、空間芸術を志すものが、輩出するのではと思います。

本当の文化都市になります。                  
2003.8.18


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