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経 営


   「資本性借入金」の積極的活用 〜企業再生支援〜


                    税経管理第6部 部長 松村


 平成23年11月22日に金融庁から≪「資本性借入金」の積極的活用

について≫が公表されました。


 内容的には、金融検査マニュアルに記載されている「十分な資本的性質

が認められる借入金」(「資本性借入金」)について、「資本」とみなす

ことができる条件がより明確化されたことにより、震災の影響で資本が毀

損している企業であっても、既存の借入金を「資本性借入金」の条件に合

致するよう変更(「DDS」(注))することにより、バランスシートが改

善し、結果として、金融機関から新規融資を受けやすくなるなどの効果が

期待され、金融機関や中小企業等に対して周知徹底を図るというものとな

っております。


(注)「DDS」:デット・デット・スワップの略称で、金融機関が、財

務状況が低迷している融資先の企業の債権を、他の条件の債権に交換する

ことで、債務者のリスクを軽くし、再生を目指す方法をいいます。


「資本性借入金」とは、金融機関が融資先の会社の財務状況を判断するこ

とにおいて、負債ではなく「資本とみなすことができる」借入金のことで

す。


「資本的借入金」は、「DDS」を用いた再生手法の普及を図るために導

入されました。破綻懸念先にかかる債権を「劣後ローン(注)」に転換した

場合についても、一定要件を満たしていれば、自己査定上、この劣後ロー

ンを資本とみなすことが可能となりました。


(注) 「劣後ローン」:他の特定の債権又は一般の債権より支払い順位が

劣るローンのことで、債務者の債権者に対する元利金の返済は他の債務よ

り後順位に置かれます。倒産などの場合には返済は不要となるため債務者

にとっては自己資本に近い性格をもちます。


金融庁の「金融検査マニュアル」によりますと、「十分な資本的性質が認

められる借入金」(「資本性借入金」)は、「貸出条件が資本に準じた借

入金」のこととされています。


資本類似性は、@「償還条件」、A「金利の設定」、B「劣後性(返済の

順位性)」といった観点から判断することとなります。


@「償還条件」については、原則として「長期間償還不要な状態である」

事が必要です。具体的には償還期間が5年を超えるものであることが必要

となります。


A「金利の設定」については、資本に準じて、原則として、「配当可能利

益に応じた金利設定」であることが必要です。具体的には、業績連動型が

原則であり、赤字の場合には利子の負担がほとんど生じないことが必要と

なりますが、その場合、株式の株主管理コストに準じた事務コスト相当の

金利であれば利子負担がほとんど生じないものとして「十分な資本的性質

が認められる借入金」と判断してよいとされています。


B「劣後性(返済の順位性)」は、原則として「法的破綻時の劣後性」が

確保されていることが必要です。


 ここで注目したいのは、「担保付借入金」と「保証付き借入金」に、以

下のような一定の条件を満たせば、「十分な資本的性質が認められる借入

金」とみなすという「例外規定」が設けられていることです。


通常、担保付借入金は、法的破綻時の劣後性が確保されているとはいえず、

「十分な資本的性質が認められる借入金」には該当しません。


 しかし、既存の「担保付借入金」から転換する場合などのように、担保

解除を行うことが事実上困難であるため、「法的破綻時の劣後性」を確保

できないような場合には、例えば、法的破綻以外の期限の利益喪失事由が

生じた場合において、他の債権に先んじて回収を行わないことを契約する

など、少なくとも法的破綻に至るまでの間において、他の債権に先んじて

回収しない仕組みが備わっていれば、担保付借入金であっても、「十分な

資本的性質が認められる借入金」とみなして差し支えないことになってお

ります。


 また、通常、「保証付き借入金」は、保証が実行された場合には、これ

らの条件が、保証人に引き継がれないことから、基本的には、「十分な資

本的性質が認められる借入金」には該当しません。


 しかし、こちらにも例外があり、上記の「長期間償還不要な状態」、「配

当可能利益に応じた金利設定」、「法的破綻時の劣後性」の条件が保証の

実行後でも確保できる仕組みが備わっているのなら、「十分な資本的性質

が認められる借入金」とみなしてよいことになっています。


 現在の制度において、日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特例制度」

や中小企業再生支援協議会版「資本的借入金」について、「十分な資本的

性質が認められる借入金」とみなすことができると規定されています。


 このように、金融庁の金融検査マニュアルに記載されている「十分な資

本的性質が認められる借入金」とみなすことができる条件がより明確化さ

れたことにより、今後において、本スキームを積極的に活用することが期

待されています。


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