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The Limit
of The Sky No.130 Page 2
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税 務
平成22年度税制改正の概要
税経管理第11部部長 細美
1 新しい税制改正の仕組み
平成22年度の税制改正の仕組みは、下記のとおりです。
◎ これまでの与党と政府の税制調査会の機能を一元化し、政府の責任の下で税
制改正の議論を行うため、政治家から構成される「税制調査会」を政府に新し
く設置するとともに、税制改正プロセスを透明化する。
◎ 税制における既得権益を一掃するため、国及び地方の政策税制措置について、
「基本方針」(「ふるい」)に基づき、今後4年間で、ゼロベースからの見直し
を行う。また、租税特別措置等の適用実態を明らかにし、その効果を検証でき
る仕組みとして、「租特透明化法(仮称)」の制定を目指すとともに、地方税法
において、所要の措置を講ずる。
2 税制改正の概要
(1) 個人所得課税
@年少扶養親族(〜15歳)に対する扶養控除(38万円)を廃止。
A16〜18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分(25万円)
を廃止。
B個人住民税については、所得税と同様に、年少扶養親族(〜15歳)に
対する扶養控除(33万円)及び16〜18歳までの特定扶養親族に対する
扶養控除の上乗せ部分(12万円)を廃止。
(2) 法人課税
@100%グループ内の内国法人間で一定の資産の移転を行ったことにより
生ずる譲渡損益の計上を繰り延べることとする等、資本に関係する取引
等に係る税制の整備。
Aいわゆる「一人オーナー会社課税制度」(特殊支配同族会社における業
務主宰役員給与の損金不算入制度)の廃止。なお、いわゆるオーナー給
与に係る課税のあり方について、個人事業主との課税の不均衡を是正し、
「二重控除」の問題を解消するための抜本的措置を平成23年度改正で講じ
る。
(3)国際課税
@国外に進出する企業の事業形態の変化等に対応し、租税回避行為を一層
的確に防止する観点から、外国子会社合算税制を見直し、一定の資産性
所得を新たに合算課税の対象としつつ、いわゆる「トリガー税率」を
「20%以下」に引き下げる。
A外国税務当局との情報交換に関し、租税条約や行政取極の締結により情
報交換ネットワークを迅速に拡充するとともに、一層効率的かつ円滑に
情報交換を実施していくため、外国への情報提供に係る規定を創設する。
(4)資産課税
@住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税措置について、所得制限
(2,000万円)を付した上で、非課税限度額(現行500万円)を、平成
22年は1,500万円、平成23年は1,000万円に引き上げ。
(5)消費課税
@燃料課税について、現行の10年間の暫定税率は廃止。その上で、原油
価格等が安定的に推移していること、地球温暖化対策との関係に留意す
る必要があること等から、当分の間、現在の税率水準を維持。
Aただし、平成20年度上半期のような原油価格の異常高騰時には本則税
率を上回る部分の課税を停止できるような法的措置を講ずる。
B地球温暖化対策のための税については、今回、当分の間として措置され
る税率の見直しも含め、平成23年度実施に向けた成案を得るべく、更
に検討を進める。
C自動車重量税については、グリーン化を行いながら、暫定税率による上
乗せ分の国分の約2分の1に相当する規模の税負担の軽減を行う。
Dたばこ税について、1本あたり3.5円(国・地方それぞれ1.75円)の
税率引上げ(価格上昇は5円程度)を行う(平成22年10月1日から適
用)。
(6)市民公益税制(寄付税制など)
@認定NPO法人制度について、認定手続と申請書類等の簡素化を行う。
A所得税の寄附金控除の適用下限額を2千円(現行5千円)に引き下げる。
(7)納税環境整備
@脱税犯に係る懲役刑の上限を10年(現行5年)に引き上げる等、罰則
(国税関係)を見直す。
(8)租税特別措置の見直し等
@国の政策税制措置(241項目)の3分の1にあたる82項目を見直しの
対象とし、うち41項目について廃止又は縮減をする(廃止12、縮減29)。
A地方の政策税制措置(286項目)についても3分の1にあたる90項目
を見直しの対象とし、うち57項目について廃止又は縮減をする(廃止
47、縮減10)。
(9)租特透明化法(仮称)等
@租税特別措置の適用実態を明らかにし、その効果を検証できる仕組みを
構築するため、通常国会に「租特透明化法案(仮称)」を提出する。
A地方税における税負担軽減措置等の適用の実態の透明化を図るととも
に、適宜、適切な見直しを推進するため、適用実態を把握し、その結果
を国会へ報告する。
3.注目すべき改正
(1)法人課税
◎グループ法人税制
法人税課税では、グループ法人税制の制度の見直しとして、100%資本関
係のあるグループ法人間の取引等に新たな制度が導入されます。
・平成22年4月1日以後開始事業年度から適用
@資本金の額等が5億円以上の法人の100%子法人は、中小企業特例措置
は適用されなくなります。
・軽減税率
・特定同族会社の特別税率の不適用
・貸倒引当金の法定繰入率
・交際費等の損金不算入制度における定額控除制度
・欠損金の繰戻しによる還付制度
A100%グループ内の内国法人からの受取配当については全額益金不算入
とし、負債利子控除は適用されません。
・平成22年10月1日から適用
@100%グループ内法人間で一定の資産を移転したことにより生ずる譲渡
損益について課税を繰り延べます。
A100%グループ内法人間で非適格株式交換等が行われた場合、完全子法
人等の有する資産を時価評価制度の対象から除外します。
B100%グループ内法人間の寄付金について、支出法人において全額「損
金不算入」とするとともに、受領法人は全額「益金不算入」とします。
C100%グループ内法人間で現物配当を行った場合、譲渡損益の計上を繰
り延べます。この際、源泉徴収等は行いません。
D100%グループ子法人の株式を親法人に譲渡する等の場合、譲渡損益を
計上しません。
◎特殊支配同族会社における業務主催役員給与の損金不算入制度
特殊支配同族会社における業務主催役員給与の損金不算入制度は、平成
22年4月1日以後終了事業年度から廃止されます。
また、個人事業主との課税の不均衡の是正と、「二重控除」の問題を解消
するための抜本的措置が、平成23年度税制改正で講じられます。
(2)個人所得課税
◎所得控除 15歳以下の扶養控除を廃止
所得税については、子ども手当の創設に伴い「所得控除から手当へ」の改革
が行われました。「扶養控除の見直し」では、年少部分(0歳から15歳)に係
る扶養控除(38万円)を廃止し、地方税についても年少部分に係る扶養控除(33
万円)が廃止されます。
特定扶養控除(16歳から22歳)では、高校の実質無償化に伴い、16歳以上
19歳未満の部分に係る国の所得控除が、63万円から38万円に圧縮されます。
地方税の所得控除も45万円から33万円に圧縮する措置が講じられます。成年
部分(23歳から69歳)に係る扶養控除については、見直しは行われません。
子ども手当と高校の実質無償化についてはいずれも、所得制限を課さないこ
とになりました。
これらの扶養控除見直しにより、給与所得及び公的年金等の源泉徴収票等に
ついては、記載事項や様式の見直しなど、所要の措置が講じられます。
これらの改正は、国税では平成23年分以後、地方税では平成24年度分以後の
適用になります。
◎証券税制
証券税制については、少額の上場株式等投資のための非課税措置の法制化が
盛り込まれました。現行の上場株式等に係る配当所得、譲渡所得の軽減税率
(10%)が20%の本則税率に戻る24年1月1日から26年12月31日までの3年間、
新たに開設する非課税口座内にある上場株式等の取得価額の合計額が年間100万
円(1人1口座に限定)まで、配当所得と譲渡所得が最長10年間にわたり非課税
になります。
また生命保険料控除についても、24年1月1日以降に締結する保険契約等の
うち、介護・医療保障を内容とする主契約・特約分を新たに「介護医療保険料
控除」として一般生命保険料控除と別枠で設けられます(国税4万円、地方税
2.8万円)。これにより一般の生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金
保険料控除の全体の所得控除限度額は国税で12万円、地方税では7万円となり
ます。
◎特定居住用財産の買換え・交換の特例の用件見直し
平成21年12月31日で期限切れとなる「特定の居住用財産の買換え及び交換
の場合の長期譲渡所得の課税の特例」が、譲渡資産に係る対価の額を2億円以
下とする用件が追加された上で、平成23年12月31日まで2年間の適用期限延
長が認められました。
また21年12月31日で期限が切れる「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損
失の損益通算及び繰越控除」や「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰
越控除」についても、平成23年12月31日まで延長されます。
所得税の寄付金控除について、平成22年分以後の所得税から適用下限額が現
行の5千円から2千円に引き下げられます。
小規模企業共済制度については、所要の法律改正を前提に、個人事業者だけ
でなく共同経営者を追加するなど加入対象者の拡充が認められました。
(3)法人税関係の租税特別措置
◎適用期限が延長・拡充されるもの
平成21年度で期限切れとなる租税特別措置で、延長や拡充が決定された主な
特例は次のとおりです。30万円未満の少額減価償却資産の損金算入特例や、交
際費560万円の損金算入枠など、中小企業関係の特例は延長されることになり
ました。
・中小企業投資促進税制(中小企業者が機械等を取得した場合の特別償却)
・中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
・交際費等の損金不算入制度と中小法人の損金算入の特例
・使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例
・中小企業者等以外の法人の欠損金の繰戻による還付の不適用措置
・中小企業等基盤強化税制
・障害者を雇用する場合の機械等の割増償却制度
◎租特透明化法で適用実態を調査把握
租税特別措置について、法人税関係の特例の適用実態を明らかにし、効果を
検証できる仕組みを作るための「租特透明化法案」が通常国会で提出されます。
租特見直しのための調査・報告制度が創設されることになります。
法人税申告書に「適用額明細書」の添付が義務づけられ、その集計・分析結
果が国会へ報告されます。23年4月1日以後に終了する事業年度の申告から提
出することになります。
(4)相続税・贈与税
◎住宅資金贈与の拡充
住宅資金贈与の500万円非課税特例が大幅に拡充され、適用期限も22年12
月31日から23年末まで延長されます。
平成22年中に住宅取得等資金の贈与を受けた場合には1,500万円、平成23
年中は1,000万円とされます。ただし受贈者には所得要件が新たに付され、合
計所得金額が2,000万円以下の場合に限られます。
相続時精算課税制度での1,000万円上乗せ特例は廃止され、65歳未満でも適
用できるとしている年齢要件の特例は2年延長となります。
◎小規模宅地特例の見直し
小規模宅地特例は、相続人等による事業・居住の継続に配慮するため設けら
れた特例であるため、その趣旨を踏まえて次の3点の見直しが行われます。
・相続人等が相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない宅地等(現行
200uまで50%減額)が適用対象から除外されます。
・一の宅地等について共同相続があった場合には、取得した人ごとに適用要
件を判定します。
・一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうちに特定居住用宅地等の
要件に該当する部分と、それ以外の部分がある場合には、部分ごとに按分
して軽減割合を計算します。
また、特定居住用宅地等は「主として居住のように供されていた一の宅地等」
に限られることを、疑義の生じないような条文で明確化するとしています。
これらの改正は平成22年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する小
規模宅地等に係る相続税について適用されます。
◎定期金評価の適正化
高額な一時払い保険料の個人年金保険に係る受給権評価について、評価方法
の適正化が行われます。
相続税法24条(定期金に関する権利の評価)による評価方法が見直され、給
付事由が発生している定期金に関する権利の評価額は、下記のうちいずれか多
い金額となります。
・解約返戻金相当額
・定期金に代えて一時金の給付が選択できるものは一時金相当額
・予定利率等を基に算出した金額
給付事由が発生していないものは解約返戻金相当額で評価されます。
改正後の評価方法は、平成22年4月1日から平成23年3月31日までの間に
契約を締結し、かつ贈与等で取得する定期金に関する権利、23年4月1日以後
の贈与等で取得する権利から適用となります。
(5)消費課税
賃貸マンション等の取得に係る消費税還付スキームに対する処置については、
平成22年4月1日以後に課税事業者選択届出書を提出した事業者の同日以後開
始する課税期間から、資本金1,000万円以上の新設法人については同日以後に
設立された法人から適用する方向であることが明らかになりました。
これにより2年間の間に調整対象固定資産を取得した場合、3年目は課税事
業者が継続して適用されることになり、現行の3年間の平均課税売上割合によ
る仕入控除税額の調整対象となります。
課税事業者が強制される期間については、簡易課税制度を適用することはで
きないこととする改正も併せて行われます。
以上が大まかな内容ですが、これからの国会審議によっては変更が充分考え
られますのでご注意ください。
詳細な内容につきましては、各担当者にお気軽におたずねください。
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