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9・10−我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか−


September・October   生涯に一度は見たいと思っていたゴーギャンの畢生の

大作「
D'ou Venons Nous / Que Sommes Nous / Ou Allons Nous」を、

ゴーギャン展(東京国立近代美術館7月3日〜9月23日http://www.gauguin2009.jp/

で鑑賞しました。貧困と病苦の中で彼の人生の遺書として描かれた作品です。


 赤ん坊が寝ころんでいる。成長し子供から大人になり、りんごに手を伸ば

すタヒチのエヴァ、やがて老いて死を前に蹲る老婆。

 背景の木々も、若木から始まり生育し朽ち果てるまでの姿が描き込まれて

います。青い仏像、動物たち、背景の森と海と山、黄金色に輝く左右の空・・・。

 複雑な構成の絵画ですが、深い味わいがあります。

 描かれているテーマの中心は、人の誕生から老いるまでの生命の流れであ

り、その題名である「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ

行くのか」は描かれていません。この絵は、その題名の深遠さと相まって、

人間存在についての原初の深い問いかけを発しており、それが強い印象を与

えます。期待通りの傑作でした。


 絵画を見るとき、画家の人生の航路と作品を重ねて見てしまいます。ゴー

ギャンの軌跡は経済人にとっても興味深いものがあります。船乗りから人生

をスタートし、海軍に入り、次いで株式の世界へ。株式仲買人(証券会社の

社員)として成功したにもかかわらず、株式暴落の時と同じくして34才で株

式仲買人を辞め、子沢山の良き家庭も捨て、絵画の世界に全てを投入します。

この決断に様々な思いがめぐります。言葉の黄金を捨て、実際の黄金を求め

てアラブ商人になったランボーとは正反対の決断です。


 画家同士の共同生活の破綻によるゴッホの深刻な危機にも拘泥せず、当時

の絵画サロンにも背を向け、ゴーギャンは自分の絵画の世界を一人で行きま

す。1891年タヒチへ。原始の人間に宿る生命力、活力を絵画に吹き込むため

に。


 サマセット・モームの小説「月と六ペンス」はゴーギャンをモデルにし、

その生涯の軌跡が書かれています。あまりに自己中心的ですが不幸に抗して

自分の絵画の道を突き進み、病の中で最後の作品を自分の住む小屋の壁に描

き尽くして果てる最終章は感動的です。その小屋の壁絵と今回の作品が重な

ります。


 夏休みや秋の連休に、経営を離れてアートの世界に親しむのもよいリフレ

ッシュの方法です。                     20090814


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