前のページへ
The Sky's the Limit No.116 Page 3
次のページへ
経 営
キャッシュフロー管理の実践
〜無駄のない資金管理を実現するために〜
税経管理第7部 部長 松村 恭男
<1>「キャッシュフロー計算書」と「資金繰り表」の違い
「キャッシュフロー」とは、直訳どおり「資金の流れ」のことを言います。
損益計算書上の利益は、「発生主義」により「収益−費用」で算出されますが、
キャッシュフローの増加額は「資金の入金−資金の出金」で算出されます。
つまり、どんなに商品を売っても、損益計算書上の利益は、「発生主義」会計
により増加するものの、キャッシュフロー計算書上は、商品代金の回収があって
はじめて、キャッシュフローの増加になるということです。
これは何も新しい手法ではなく、これまでも中小企業において行なわれてきた、
売掛金・受取手形等の入金決済や買掛金・支払手形・借入金返済等の支払決済を
ベースに作成される「資金繰り表」とほぼ同じ考え方なのです。
しかし、その性質は異なります。「資金繰り表」は、「来月、3ヶ月後の会社の
資金は今のままで足りるだろうか、もし足りなければどうやって調達するか」と
いう未来志向的な視点が中心となります。
しかしながら、「資金繰り表」には「なぜ資金が足りないのか、どうすれば資
金を豊富にすることができるのか」という根本的な原因を解決するための戦略的
視点はありません。このような視点から経営を考えるための分析ツールこそが
「キャッシュフロー計算書」であると言えます。
<2>「キャシュフロー計算書」の重要性が増している理由
なぜ、「キャッシュフロー計算書」の重要性が年々増しているかといいますと、
「キャッシュフロー計算書」により、「資金の流れ」という客観性が高い情報を
知ることができ、資金繰り改善の分析資料として最も有用であるからです。
「損益計算書では黒字ですが、資金繰りは、毎期厳しい状況が続いています」
というお話を聞くことがあります。損益計算書で利益が計上されている会社であ
っても、必ずしも豊富に資金があるとは限りません。それは、損益計算書が現金
の出入りを表示する「現金主義」会計ではなく、実際に取引を行った発生期間に
取引金額を割り当てるという「発生主義」会計によって計算されているからです。
「キャッシュフロー計算書」により、損益計算書で採用されている「発生主義」
会計から「キャッシュフロー」への調整を行うことによって、「資金の流れ」と
いう客観性の高い数値を知ることができ、損益計算書では見えてこない資金繰り
の悪化の原因が特定でき、改善策を講じることができるのです。
「キャッシュフロー計算書」により会社の「資金の流れ」を分析することで、
たとえば、滞留売上債権の増加や、不良在庫の増加などが資金繰りを悪化させて
いるという原因が特定され、明確な改善方針が立てられるのです。
<3>「キャッシュフロー計算書」の仕組み
はじめの方で、「資金繰り表」と「キャッシュフロー計算書」の「性質の違い」
を述べました。では、両者の仕組みは、どこが違うのでしょうか。
両者の仕組みの違いは、「資金繰り表」は「資金がいくら残るか」を知るため
に作成されるものなのに対し、「キャッシュフロー計算書」は「資金がどのよう
にしていくら残るか」を知るために作成されるということです。
そのため、「キャッシュフロー計算書」では、「資金の流れ」を以下のように区
分し、それぞれの区分ごとに収支の計算を行います。
A、「営業活動によるキャッシュフロー」
自社でどれだけの資金を稼ぎだすことができたか、又は不足したか。
B、「投資活動によるキャッシュフロー」
将来の事業拡大のため、または資金運用のためにどれだけの資金を使ったか
又は回収できたか。
C,「財務活動によるキャッシュフロー」
上記の営業活動、投資活動の結果、どれだけの資金を外部から調達しなけれ
ばならなかったか、又は返済できたか。
まず、Aをどれだけプラスにできるかが重要です。Bは、将来の事業拡大のた
めに必要不可欠な投資が原因であるならば、マイナスになっても仕方ありません。
A+BがマイナスになるときC(新規借入)で補います。Cがあればプラスにな
ります。しかし、Cがプラスになったとしても、それは後で返済しなければなら
ないものなので、計画的な借入が必要となってきます。
このように、「キャッシュフロー計算書」により資金がどのように調達され、
どのように使われたかを知ることができます。
<4>「キャッシュフロー計算書」の具体例
「キャッシュフロー計算書」の具体例(損益計算書上の利益とキャッシュフロ
ーの増加額とが大きく離れているケース)を、間接法により作成しました。
この会社での期中の「資金の流れ」は、次のようになっています。
A 当期利益は、2,000千円の利益だが、売上債権や在庫が増えたことが原
因となり、営業活動によるキャッシュフローは、▲1,000千円となった。
B 当期は、前期より利益が出そうだし、前期も黒字決算だったこともあって思
い切って設備投資を行った。そのため、投資活動によるキャッシュフローは、
▲4,000千円になった。
C 営業活動によるキャッシュフローの「マイナス」と投資活動によるキャッシ
ュフローの「マイナス」を補うため、財務活動によるキャッシュフローは、
+3,000千円となった。
結果的に、当期のキャッシュフローの増加額は、▲2,000千円となった。
T.営業活動によるキャッシュフロー | (単位:千円) | |
税引前当期純利益 | 2,000 | スタート |
減価償却費 ※1 | 2,000 | |
売上債権の増加額 ※2 | ▲3,000 | |
棚卸資産の増加額 | ▲1,000 | |
仕入債務の増加額 | 300 | |
法人税等の支払額 | ▲1,100 | |
その他の資産の増加額 | ▲300 | |
その他の負債の増加額 | 100 | |
営業活動によるキャッシュフロー | ▲1,000 | A |
U.投資活動によるキャッシュフロー | ||
有形固定資産の取得による支出 ※3 | ▲5,000 | |
有形固定資産の売却による収入 ※3 | 1,000 | |
投資活動によるキャッシュフロー | ▲4,000 | B |
V.財務活動によるキャッシュフロー | ||
短期借入金の増加額 ※4 | 1,000 | |
長期借入金の増加額 ※4 | 2,000 | |
財務活動によるキャッシュフロー | 3,000 | C |
W.現金及び現金同等物の増加額 | ▲2,000 | A+B+C |
X.現金及び現金同等物期首残高 | 4,500 | |
Y.現金及び現金同等物期末残高 | 2,500 |
※1 減価償却費2,000千円は、損益計算書上、費用に計上されています。
しかし、実際に資金が出ていったわけではなく、資金は手元に残っている
ため、当期利益にプラスします。
※2 売上債権3,000千円の増加は、当期の売上高に対応し、損益計算書上、
収益に計上されていますが、代金を回収できておらず、資金は入ってきて
いないため当期利益からマイナスします。
※3 5,000千円の有形固定資産を取得しても、損益計算書上は、全額当期
の費用に落ちません。しかし、資金は5,000千円出ていっているため
当期利益からマイナスします。また、売却代金1,000をプラスします。
※4 銀行から3,000千円の借入をしても、損益計算書上、収益も費用も発
生しません(支払利息のみ費用計上)。しかし、資金は3,000千円増
加するため、当期利益にプラスします。
<5>キャッシュフロー重視の経営
上記の具体例を見ていただいたところで、この会社は、「キャッシュフロー計
算書」の結果を、どのように経営に生かしていけばよいのでしょうか。
「キャッシュフロー重視の経営」では、できるだけ多くの資金を手元に残すこ
とが目標となります。このような目標を設定すると、この会社において、以下の
ような「経営改善方針」が、より明確になります。
1)売上は、単に伸ばせば良いというものではなく、売掛金などの売上債権が
確実に回収出来なければならない。
2)売上に見合った仕入が行われなければならない。よって、在庫は必要最小
限に止める。
3)将来のキャッシュフローに貢献するかどうかで設備投資を行うか否か判断
する。
4)各部門の責任者の成績は、どれだけキャッシュフローを増加させたかで判断
する。
前のページへ The Sky's the Limit No.116 Page 3 次のページへ