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経 営

           キャッシュフロー管理の実践

         〜無駄のない資金管理を実現するために〜

                    税経管理第7部 部長 松村 恭男

<1>「キャッシュフロー計算書」と「資金繰り表」の違い

 「キャッシュフロー」とは、直訳どおり「資金の流れ」のことを言います。

 損益計算書上の利益は、「発生主義」により「収益−費用」で算出されますが、

キャッシュフローの増加額は「資金の入金−資金の出金」で算出されます。

 つまり、どんなに商品を売っても、損益計算書上の利益は、「発生主義」会計

により増加するものの、キャッシュフロー計算書上は、商品代金の回収があって

はじめて、キャッシュフローの増加になるということです。

 これは何も新しい手法ではなく、これまでも中小企業において行なわれてきた、

売掛金・受取手形等の入金決済や買掛金・支払手形・借入金返済等の支払決済を

ベースに作成される「資金繰り表」とほぼ同じ考え方なのです。

 しかし、その性質は異なります。「資金繰り表」は、「来月、3ヶ月後の会社の

資金は今のままで足りるだろうか、もし足りなければどうやって調達するか」と

いう未来志向的な視点が中心となります。

 しかしながら、「資金繰り表」には「なぜ資金が足りないのか、どうすれば資

金を豊富にすることができるのか」という根本的な原因を解決するための戦略的

視点はありません。このような視点から経営を考えるための分析ツールこそが

「キャッシュフロー計算書」であると言えます。



<2>「キャシュフロー計算書」の重要性が増している理由

 なぜ、「キャッシュフロー計算書」の重要性が年々増しているかといいますと、

「キャッシュフロー計算書」により、「資金の流れ」という客観性が高い情報を

知ることができ、資金繰り改善の分析資料として最も有用であるから
です。

 「損益計算書では黒字ですが、資金繰りは、毎期厳しい状況が続いています」

というお話を聞くことがあります。損益計算書で利益が計上されている会社であ

っても、必ずしも豊富に資金があるとは限りません。それは、損益計算書が現金

の出入りを表示する「現金主義」会計ではなく、実際に取引を行った発生期間に

取引金額を割り当てるという「発生主義」会計によって計算されているからです。

 「キャッシュフロー計算書」により、損益計算書で採用されている「発生主義」

会計から「キャッシュフロー」への調整を行うことによって、「資金の流れ」と

いう客観性の高い数値を知ることができ、損益計算書では見えてこない資金繰り

の悪化の原因が特定でき、改善策を講じることができるのです。


 「キャッシュフロー計算書」により会社の「資金の流れ」を分析することで、

たとえば、滞留売上債権の増加や、不良在庫の増加などが資金繰りを悪化させて

いるという原因が特定され、明確な改善方針が立てられるのです。


<3>「キャッシュフロー計算書」の仕組み

 はじめの方で、「資金繰り表」と「キャッシュフロー計算書」の「性質の違い」

を述べました。では、両者の仕組みは、どこが違うのでしょうか。

 両者の仕組みの違いは、「資金繰り表」は「資金がいくら残るか」を知るため

に作成されるものなのに対し、「キャッシュフロー計算書」は「資金がどのよう

にしていくら残るか」を知るために作成されるということです。


 そのため、「キャッシュフロー計算書」では、「資金の流れ」を以下のように区

分し、それぞれの区分ごとに収支の計算を行います。

A、「営業活動によるキャッシュフロー」

  自社でどれだけの資金を稼ぎだすことができたか、又は不足したか。

B、「投資活動によるキャッシュフロー」

  将来の事業拡大のため、または資金運用のためにどれだけの資金を使ったか

  又は回収できたか。

C,「財務活動によるキャッシュフロー」

  上記の営業活動、投資活動の結果、どれだけの資金を外部から調達しなけれ

  ばならなかったか、又は返済できたか。

 まず、Aをどれだけプラスにできるかが重要です。Bは、将来の事業拡大のた

めに必要不可欠な投資が原因であるならば、マイナスになっても仕方ありません。

A+BがマイナスになるときC(新規借入)で補います。Cがあればプラスにな

ります。しかし、Cがプラスになったとしても、それは後で返済しなければなら

ないものなので、計画的な借入が必要となってきます。

 このように、「キャッシュフロー計算書」により資金がどのように調達され、

どのように使われたかを知ることができます。


<4>「キャッシュフロー計算書」の具体例

 「キャッシュフロー計算書」の具体例(損益計算書上の利益とキャッシュフロ

ーの増加額とが大きく離れているケース)を、間接法により作成しました。

 この会社での期中の「資金の流れ」は、次のようになっています。

A 当期利益は、2,000千円の利益だが、売上債権や在庫が増えたことが原

  因となり、営業活動によるキャッシュフローは、▲1,000千円となった。

B 当期は、前期より利益が出そうだし、前期も黒字決算だったこともあって思

  い切って設備投資を行った。そのため、投資活動によるキャッシュフローは、

  ▲4,000千円になった。

C 営業活動によるキャッシュフローの「マイナス」と投資活動によるキャッシ

  ュフローの「マイナス」を補うため、財務活動によるキャッシュフローは、

  +3,000千円となった。

 結果的に、当期のキャッシュフローの増加額は、▲2,000千円となった。

T.営業活動によるキャッシュフロー (単位:千円)
 税引前当期純利益 2,000 スタート
 減価償却費 ※1 2,000
 売上債権の増加額 ※2 ▲3,000
 棚卸資産の増加額 ▲1,000
 仕入債務の増加額 300
 法人税等の支払額 ▲1,100
 その他の資産の増加額 ▲300
 その他の負債の増加額 100
営業活動によるキャッシュフロー ▲1,000
U.投資活動によるキャッシュフロー
 有形固定資産の取得による支出 ※3 ▲5,000
 有形固定資産の売却による収入 ※3 1,000
投資活動によるキャッシュフロー ▲4,000
V.財務活動によるキャッシュフロー
 短期借入金の増加額 ※4 1,000
 長期借入金の増加額 ※4 2,000
財務活動によるキャッシュフロー 3,000
W.現金及び現金同等物の増加額 ▲2,000 A+B+C
X.現金及び現金同等物期首残高 4,500
Y.現金及び現金同等物期末残高 2,500

※1 減価償却費2,000千円は、損益計算書上、費用に計上されています。

   しかし、実際に資金が出ていったわけではなく、資金は手元に残っている

   ため、当期利益にプラスします。

※2 売上債権3,000千円の増加は、当期の売上高に対応し、損益計算書上、

   収益に計上されていますが、代金を回収できておらず、資金は入ってきて

   いないため当期利益からマイナスします。

※3 5,000千円の有形固定資産を取得しても、損益計算書上は、全額当期

   の費用に落ちません。しかし、資金は5,000千円出ていっているため

   当期利益からマイナスします。また、売却代金1,000をプラスします。

※4 銀行から3,000千円の借入をしても、損益計算書上、収益も費用も発

   生しません(支払利息のみ費用計上)。しかし、資金は3,000千円増

   加するため、当期利益にプラスします。


<5>キャッシュフロー重視の経営

 上記の具体例を見ていただいたところで、この会社は、「キャッシュフロー計

算書」の結果を、どのように経営に生かしていけばよいのでしょうか。

 「キャッシュフロー重視の経営」では、できるだけ多くの資金を手元に残すこ

とが目標となります。
このような目標を設定すると、この会社において、以下の

ような「経営改善方針」が、より明確になります。

1)売上は、単に伸ばせば良いというものではなく、売掛金などの売上債権が

  確実に回収出来なければならない。

2)売上に見合った仕入が行われなければならない。よって、在庫は必要最小

  限に止める。

3)将来のキャッシュフローに貢献するかどうかで設備投資を行うか否か判断

  する。

4)各部門の責任者の成績は、どれだけキャッシュフローを増加させたかで判断

  する。

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